Order of the Phoenix-27
「声がする… なんて?」
「声なんか聞こえないわハリー。出ましょう」
「私も聞こえる…」
名前が眺める、暗がりで怪しく光るアーチへ歩み寄る皆の後ろ姿は、声のする者としない者とで、後ろ姿であっても明らかだった。
ハリーはふと名前の背後あたりを振り返り、上空へ杖を構える。
「後ろにつけ!!」
「!!」
急いでハリーへ駆け寄る、ネビルに名前も続こうとすると、視界の隅にうごめく黒い靄を捕らえた。
「!! みんな避け… ―!」
名前が声を荒げたときには既に手遅れで、構えた指と口を、靄から出たデスイーターの手に妨害される。皆のほうも背後から漆黒の波が押し寄せ、水晶をどうにか死守してハリーが周囲をうかがう頃には、距離をとり、ハリーに人質を見せつけるように一人ひとりが捕らえられていた。
名前は神秘部で対峙した髭面の男に取り押さえられ、喉に杖と、鳴らさないように手の平も甲もまとめて、爪が痛いほど握りしめられておりビクともしない。
「例の魔法はそいつだ。利き手を折れ」
ルシウスの指示が不気味に響き名前は血の気を引かせる。この男にはつい先刻指を鳴らし、利き手がわれている。
「やめ… ――」
男が躊躇せず力を籠め飛ばした魔力で閃光が走ると、張り詰めた空間に耳を塞ぎたくなる音と名前の悲鳴が響く。恐怖にハーマイオニーが目を閉じ身を縮まらせ、ハリーが制止を叫ぶ。
名前は折られた手のほうの腕を掴みなおされ、ふらつきながら激痛を耐える。
滑稽な様と、手も足も出ないハリーを笑いながら、ルシウスは杖をつき歩み寄る。
「勝ち目があると?そこまで愚かだったとはな…。子供だけで我々に勝てると思ったか?」
ルシウスはハリーの周囲を見渡す。恨めしそうに涙のたまった目で睨み見上げる名前。ネビルを見れば、彼を抑えるベラトリックスがニヤと、笑みを返す。手を差し出し、ハリーに水晶を渡すよう急かした。友を拘束され揺らぐ瞳を、ルシウスは見逃さない。
「ほかに選ぶ道はないぞ」
「……」
「予言を渡すのだ。さもなくば、友が死ぬ」
「(だめよ… だめよハリー …―)」
「渡すな、ハリー!!」 「シッ」
皆の気持ちを、ネビルは勇敢に叫ぶも、ハリーは意を決し、何も映さない瞳で、ルシウスへ水晶を渡した。
ハリーも同じ気持ちであろう、皆が絶望に包まれる。名前はショックに目を閉じると、少し明るい光を感じ異変を察知した。
「…―――」
「息子に手を出すな。」 ― バキ! ―
アーチへ目をやると、そこにはシリウスが立っており、一言置くように言って、ルシウスを殴り飛ばした。皆突然のことに目を丸くする。その間、白く眩しい煙が幾多も駆け、拘束していたデスイーターを追い払うように飛び交った。本部の面々が、助けに駆け付けた。
―バリン!!― 「…!!」
水晶を手から滑らせ、ショックに震えるルシウスに目を見張る名前。瞬間、両目に光が飛び込み拘束が解かれる。
「名前、手を見せろ」
「ムーディ先生… う゛っ、」
腕を持たれ電流の走るような感覚に顔を歪める。赤みも、墨のような魔力の跡も、骨折の痣も携えた名前の小さな手に、ムーディは厳しい表情を見せる。ふと気配を感じ取ったムーディが背後を振り返ると、デスイーターの一人がこちらへ杖を構えたが
「!」 ―バシャアッ!―
―バシュ!!―
「「 、…」」
ムーディが杖を地面につき魔力を飛ばした狭間、咄嗟に無事なほうの手で名前が空を切ると、水の塊が顔に命中し、ムーディの威力でそのまま岩まで吹き飛んた。指も鳴らさなかった、無我夢中でやったら名前から魔法が出たその一瞬の出来事に、ムーディと名前は同じような顔を見合わせた。