×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


ごほうびというには


 人気の誰それが出てるだか最近流行っているだかなんだかのテレビドラマでは、つい先ほどから登場人物がすれ違ったりなんだりを繰り返している。煙草を咥えながら眺めていたが、今日で数話目のドラマに瞬時についていける訳もなく、本当にただ眺めるだけになっていた。

「わ」

 熱心にテレビを見つめていたなまえが、小さく声を漏らす。テレビの中では、俺でもなんだかんだ面を知っている俳優が花束をヒロインに渡して柔らかい笑顔を浮かべているところだった。おい、コイツさっきまで連続爆破犯って疑われてたんじゃねえのか。疑問に口を開きかけるも、先週同じように口を出してそこそこ本気で睨みつけられたことを思い出して辞めた。ビビった訳じゃねえけどな。邪魔しちゃ悪ぃから。

「いいなあ、お花欲しいな」
「花ァ?」

 ぽつ、と部屋に落ちた声は、本当に零れたと言ってもいいくらいにはささやかだったが、傍に居る俺の元へははっきりと届いてきた。思わず、目の前のこいつが花を貰って喜ぶ姿が想像できずに本当に思わず、素っ頓狂な声が出た。ちらり、となまえが俺へ瞳を向ける。

「……お花とか、いつかはプレゼントされてみたいっていうだけです」

 俺に揶揄われるとでも思ったのか、誤魔化すように続けられたような言葉にはどこか言い訳じみた響きが伴われている。

「花、ねぇ」
「似合わないって言うんでしょう、やかましいです」
「別に言ってねえだろ一言も」

 まあ思ったんだが。それを言葉にしたら機嫌が地の底まで落ちるのは分かっていた。悟られないように再び画面へと顔を向ける。さっきと違う俳優が今度はバンジージャンプをしながらヒロインに告白していた。なんだこのドラマは。


△△△


「ほらよ」

 縁側で足をぶらつかせながら缶コーヒーを飲んでいた背中に声をかけて、買ってきたばかりのそれを差し出す。
本当に、ふと、思ったからだった。巡回後に花屋を通って「そういや欲しがってたな」と思い出しただけで、別にこれといって、特に理由は無い。いつも働かせまくっているから、これくらいの些細な願いは叶えてやろうかと、その程度。花束はあのドラマに登場したくらいのデカさのやつを想定していたら、意外と高かった。
 ぽかん、とした顔がこちらを向いている。ぱちぱちぱち、と何度か瞳を瞬いて、俺と花束を交互に見つめ、最後に俺の顔を見上げてまたぽかんと口を開けた。

「……なんですか、それは」
「何って、花だ、花」
「いや、それは分かります。……あ、土方さん、誰か物好きな人に貰ったもの押し付けようと……いや、貴方は受け取らないか。じゃあ受け取られなかった近藤さんの花ですか?」
「お前に買ったんだよ」

 きょとんとした表情が、訝し気なものに変わり、そして驚愕に変わり、また訝し気なものに変わった。「なんで買ったんですか」とじとりとした顔で言うのでこちらも苛立ってきて、花束を眼前にまで付きつける。俺が花買ってくんのがそんなに似合わねえってか。……似合わねえか。

「欲しいんだろ、花」
「え」

 その一言で、目の前の顔があどけないものに変わった。記憶を辿るように間が空き、思い至ったように「あ」とぼんやりとした声が口から漏れている。ずっと花束を差し出しているのもじれったい。早く受け取れ、と言うと、腕が伸びてきてしっかりと花束を受け取った。花束を抱いて、真っすぐとした瞳がこちらを向く。

「いや言いましたけどわたしは優しくて最高にイケメンな例えばヒデトシみたいな人に穏やかに微笑まれながら花束を渡されたいのであってマヨラーにぶっきらぼうに渡されたいかと言えば決してそんなことは」
「やっぱ返せコラ」
「いやもったいないので」

 奪い返そうとした花束をしっかりと胸に抱いて、ひょいひょいと俺の腕を躱すと、なまえがそのまま花束に僅かに鼻先を寄せる。ふ、と息を漏らすように、花を真っすぐに見つめて笑むと、ぽつりと、小さくはっきりと言葉を零した。

「もったいないので、……もらっておいてあげます、へへ」

 途端に緩まった表情を見ているとむず痒くて堪らない。柄にもねぇことするんじゃ無かった、と独り言ちてみても、あんな顔見れたからまあいいか、と考えている自分も居る。とりあえずその場に居るのが気まずくなったのでそのまま背を向けた。

「ありがとうございます、土方さん」

 とりあえず適当に手をひらひら振っておいた。



「土方さん昨日あいつに花束買って来たんですって? 下心見え見えすぎていっそ尊敬しちまいやす。普通にセクハラで訴えられてクビになりゃいいのに」
「副長、流石にいきなり花って、ぶは」
「トシ! 俺もお妙さんに花プレゼントしようと思うんだけど埋もれそうなくらいデカいやつ!」
 やっぱ買ってくるんじゃなかった。そう思ってももう遅い。取り囲まれている俺をまるきり無視して、鼻歌混じりにあいつは花を活けている。




back