きみの明星にふれる | ナノ
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きっと何度も夢見た綺羅星

星を見に行った。高校一年生の時に。二人きりで。わたしは昔から星をぼんやりと眺めるのが好きだったけれど、なんとか座がどうのだとか、なんとか惑星とか、何年に一度のなんとか現象だとか、そういうのはてんで知らなかった。むしろそういった難しげで雑学じみたことがすきなのは花京院君で、わたしは彼からたくさんの事を教わったのだ。
星をじっと眺めていると、吸い込まれそうになる感覚があって好きだった。その癖、手を伸ばしたってどうにも届きやしない。そんな意地悪なところも、気に入っていた。星というのは、詳しくなくたって眺めていることができる、そんなところも好きだった。

花京院君とわたしは、高校は別々のところへと進学した。けれど連絡はかなりマメに取り合っていて、毎日たわいないことを話していた。新しい学校の友達の話、その日食べたご飯の話なんていうのも。だから花京院君から「光、星を見に行こう」と連絡が来た時はすぐに返事をしたし、計画だってしっかりと立てた。
家からは少し離れた、丘のある公園。行く前に、彼の家に電話をした時、花京院君のお母さん、とっても嬉しそうだったなあ。これからも宜しくね、そんな風に、笑っていてくれた気がする。
もうすぐ春だったけれどまだ夜はとても寒くて、吐く息は白んでいた。肌を指す冷たさを何故だか嫌に覚えている。馬鹿なわたしは手袋を忘れてしまったから、息を吹きかけて、手を必死に擦り合わせていた。そんなわたしを見て花京院君は仕方なさそうに笑うと、自分の手袋を貸してくれた。でも両方借りるのは申し訳なかったから、片方だけ。そうして空いたもう一つの手は、花京院君のポケットに、彼の手と一緒に突っ込んだ。大きな掌がぎゅう、とわたしの手を握り込んで、まるでカップルみたいだと、わたしは笑った。
……ああ、でも、花京院君はどんな格好をしていたのだっけ。貸してもらった手袋は、どんな柄で、どんな色だっただろう。ポケットの中で繋いだ手は、暖かかったのだろうか、それとも、冷たかったのだろうか。どんなにその温もりを思い返そうとしても、駄目だった。

二人で訪れた丘には、テレビで散々騒いでいたくせに、思っていたよりも人は少なかった。多分、数組しか居なかったような気がする。
わたし達はせっせとレジャーシートをひいて、水筒に入れてきた暖かいお茶を飲みながら、ただ、星が落ちてくるのを待っていた。…飲んでいたのはココアだったか、もしかすると紅茶だったかもしれない。温かくてほっとしたのは、覚えているのに。
熱いカップと、花京院君の大きな掌を握って、わたしはじっと空を見上げていた。花京院君が隣にいるとわたしは心底安心してしまうから、いつの間にかことりと寝てしまうだなんてことがないように気をつけながら。冷たい空気が頬に触れる中でも船を漕いでしまうわたしを花京院君が時々笑いながら小突いて起こしてくれた。
横に並んで夜の空を見上げるだけの、そんな時間が何よりも穏やかで、心地よかった。それは隣に花京院君が居てくれるからなのだと、きっとその時には気づきもしなかったのだろうけれど。
そうして暫く、きらり、と一筋の光が落ちたのだ。想像していたよりもずっと、ささやかな光だった。
ぽろぽろと、まるで空が光の涙を零すように、星が降ってくる。今にも掴めそうなほど近いそれに手を伸ばした。掴めないと分かっていても、追い求めてしまうほど、美しい光。きらきらと、目の奥に溶けていく。
花京院君は、星を眺め目を細めていた。幸せそうに、微笑んで。……そうして彼は何と言っていたのだっけ。


△△△


「綺麗だったか?」
「ええ、それはもう。運良く晴れていましたし、住んでたところ、あんまり都会じゃなかったから」

目を細めた森瀬に、俺は少し考えて、そうして、懐から手紙を取りだした。色あせたそれを受け取るのを、森瀬は一瞬迷ったようだった。

「……誰から、ですか」

俺は黙っていた。きっと薄々勘づいているのだろう、指先が、震えている。