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銀の戦車

その後わたしたちは香港に入国し、一先ず近くの飲食店に腰を落ち着けている。
テーブルを囲みながら今後について話し合う。空からエジプトに向かうルートが無くなってしまった今、もう陸路か海路を使うしか道はない。公的な機関を使っての移動は先程のように一般人を巻き込んでしまう可能性が高く、それにもし飛行機にわたし達しか乗っていなかったとしても、また墜落するのは正直ごめんだ。しかし一方で、わたし達には時間が無いのも事実だった。50日以内にDIOに出会わなくては、聖子さんの命が危険であるという事実が、心臓を締め付ける。
ジョースターさんは手元の地図を指し示し、海路を提案した。船でマレーシア半島から回り、インド洋へ。確かに、陸路よりは海路の方がスムーズなイメージがある。
アヴドゥルさんも同意し、花京院君も「二人に従う」というスタンスらしかった。承太郎君が頷く横で、わたしも首を縦に振る。

「だがやはり一番の危険は、DIOが差し向けてくるスタンド使いだ! いかにして見つからずにエジプトにもぐりこむか……」

眉を顰めるジョースターさんの言葉にまた心臓がぞわりとした。飛行機に現れたあのおじいさんのような刺客が、また現れるのだ。凄惨な光景を思い出し、手に力がはいる。あの時わたしは何もできなかった。
……これ以上、関係のない人を巻き込む訳にはいかない。「盾」を貼り、「治療」ができるのだ。わたしの力量次第でできることは沢山あるだろう。
ぐ、と拳に力を込めて、心臓を落ち着かせるように深呼吸をする。

「…すみません、ちょっといいですか?」

ふと後ろからかけられた声に振り返ると、そこにはにっこりと明るい笑みを浮かべた男性が立っていた。とてもガタイがいい。わたしの周りに座るこの人たちもかなりだけれど。

「わたしはフランスから来た旅行者なんですが、どうも漢字が難しくてメニューが分かりません。助けて欲しいのですが」

困った風に眉を下げる男の人に教えてあげたいのは山々なのだが、正直わたしもこのメニューに書いてある文字だなんて皆目検討もつかない。なんとなく分かるかな……と不安になっていると隣の承太郎君が「やかましい、向こうへ行け」と突っぱねてしまった。すかさずジョースターさんが「おいおい承太郎……」とフォローにはいっている。
なんだかこの二人の光景にも慣れてきたかもしれない、としみじみと思いながらジョースターさんに目を向けると、彼は話しかけてきた男性に快く頷いていた。

「わしゃ何度も香港には来とるからメニューぐらいの漢字はだいたい分かる」
「わあ、……流石年長者」
「やめろ、調子に乗る」

頼もしい笑顔を見せたジョースターさんに思わず声をもらすと、承太郎君がぴしゃりと言う。
エビとアヒルとフカのヒレとキノコの料理。ジョースターさんはメニュー表を指し示しながらすらすらと注文していく。
大人の余裕を感じる姿をまじまじと見つめていると、正面に腰を下ろしたフランス人の男性と目が合って、にこりと微笑まれた。なんというか、すごく優しい瞳だったからか、思わず軽く会釈をしてしまった。

暫く経ち、料理が運ばれてきた。食欲をそそる香りにお腹がなってしまいそうで、掌で軽く押さえつける。何せ暫くご飯を食べていないし、飛行機での戦闘からの緊急着陸で気が張っていた。皆もお腹が空いている筈だ。しかし、さっそく食べようか、というところでどうやら皆が唖然としていることに気づいてしまった。その瞳はテーブルの上の料理に向けられている。

「か、カエル……」

カエルだ。どこからどう見たって、カエルだ。他の品もどうやら当初頼もうとしていたものとは全く違うもののようで、わたしは頬を引き攣らせた。
ジョースターさんが取り繕うように笑い声をあげている。わたし達はそれと対比するように静かになっていく。カエルと目が合った。

「ま、……まあいいじゃないか、みんなでたべよう。わしの奢りだ」

わはははははは。という笑い声を聞きながらわたしはカエルから目が逸らせなくなってしまう。めちゃくちゃそのまんまのカエルだ。
皆が動きを止めている中、あのフランス人の男性が箸を伸ばした。ひょい、と皿の中から人参をつまむ。

「手間ひまかけてこさえてありますなあ。……ほら、このニンジンの形」

明るい声で笑う彼に続こうと、わたしも箸を手に取った。先程会ったばかりの人に気を使わせてしまうなんて、と申し訳なく思って慌ててしまう。しかし、彼の雰囲気が変わり、わたし達を取り巻く空気が急激に変わったのを感じ、ぴたりと動きを止める。怪しく光る瞳と目が合ってぞわりとした。
彼は態とらしく考え込むような振りをして、言葉を紡いでいく。

「星の形、なんか見覚えあるなあ〜」

全員が、その言葉にぴくりと反応した。わたしもその話をジョースターさんから先日聞いたばかりなのだ、もちろんのこと聞き覚えがあった。ジョースター家の人々には、皆同じように星型の痣があるという。ジョースターさんにも、聖子さんにも、承太郎君にも。

「そうそうわたしの知り合いが、首すじにこれと同じ形のアザを持っていたな……」

そして、ジョナサン・ジョースターさんの身体にも。ぴたりと首すじに当てられた星型のそれが何を意味するのか理解する。警戒を強めた花京院君が「貴様! 新手の……」と叫んだ途端、テーブル上の皿がマグマのように音を立て始めた。

「ジョースターさん危ないッ」

アヴドゥルさんの叫び声が辺りに響いた。テーブルが割れ、料理が飛び散る。

「スタンド使いだッ!」

ジョースターさんの掌には深々と銀色に光る何かが突き刺さっている。ホーリー・スフィアーズで盾を貼ろうとしたものの全く間に合わない。すぐにアヴドゥルさんのマジシャンズレッドが攻撃したけれど、その炎は切り裂かれるように分裂している。
速すぎてなにがなんだか、分からない。わたしは最早悲鳴をあげないようにすることに精一杯で、いつの間にかバランスを崩し後ろにすっ転んでいた。