×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

いち、に、さん

うごうご、と額で蠢くそれに思わず顔を歪めてしまう。あんまり長いこと見ていたいものではない。
DIOの刺客であったフランス人男性ーージャン・ピエール・ポルナレフは、肉の芽に操られた一人だった。色とりどりの動物の像が並ぶタイガーバームガーデンで横たわる彼に目を向ける。飛行機で襲ってきた敵よりもずっと正々堂々と戦いを申し込んで来た彼は、どうにも悪い人には見えなかったものだから、肉の芽の存在をみて納得してしまった。
スタープラチナが肉の芽を引き抜こうとしたのを見てすっと目を逸らす。あまり目に入れたくない。

「うわ……やっぱりグロい……」

ぱ、と思わず掌で顔を覆う。横でジョースターさんが「うええ〜」と身をのけぞらせているし、やっぱり皆気持ち悪いと思っているようだ。
肉の芽が消滅したのを確認してほっと息を着く。すぐさまジョースターさんが駆け寄って「これでにくめないヤツになったわけじゃな」とにこにこ笑っていてなんだか安心した。いつだってチャーミングなジョースターさんのお陰で気分が和むのでとても助かっているのだ。なので隣で承太郎くんが「ムショーに腹が立つ」とコメントしているのは聞かない振りをした。
わたしはジョースターさんのダジャレ、面白いと思うもの。……ほんとに。


△△△

段々と遠ざかってゆく陸をぼんやりと眺める。船の上ならではの揺れが、わたしの脳をぐらりと揺らすようだった。香港から出航して早数分。もうその影はかなり遠い。

「……大丈夫かい?」

優しくかけられた声に目を向ける。そこにはアヴドゥルさんとの戦いの後旅に同行することになった、ポルナレフさんが立っていた。

「少し疲れた顔をしてるな、……無理もないか。かなり厳しい旅路だろう?」

気遣わしげな瞳と目が合った。わたしはそんなに酷い顔をしていただろうかと、少し頬に触れてみたけれど、自分ではあまり分からない。

「大丈夫です、……ありがとうございます」

へらりと笑顔を浮かべたけれど、ポルナレフさんは心配そうな顔を崩すことはしなかった。

「少し眠ってきた方がいい。……部屋までお連れしよう、お嬢さん」

す、と差し出された手に戸惑って、暫く逡巡してしまった。優しい掌も、お嬢さん、なんて呼び方もなんだか気恥ずかしく固まるわたしに、ポルナレフさんが楽しそうに笑う。

「なんだ、お姫様抱っこをご所望か?」
「だ、大丈夫です……!」

勢いよく首を振ると、また彼が笑う。しかし差し出された手を引っ込めることはなく、わたしはまた暫くの間固まって、おずおずとその手を取った。その手を取らないと、無理やりにでも抱き上げられそうな気がしたからだ。
ゆっくりとした足取りで、船上を歩いていく。その気遣いが、申し訳なくて、くすぐったくて、そうしてどこか嬉しくもあった。

甲板から船内に入ると、いくつかの部屋がある。この船にいる間、使わせてもらえることになっているようで、アヴドゥルさんも既にその中の一室で体を休めているようだ。
ポルナレフさんが扉を開けて、緩く握られていた手をゆっくりと降ろされる。

「どうぞ? お嬢さん」

お嬢さん、という言葉に揶揄いが混じったのに気づいて、少しだけ笑ってしまう。こちらが恥ずかしくて仕方が無いというのに気づいたのだろう。……なんというか。

「女性の扱いに慣れてますね?」
「はは、そうか?」

わたしの言葉に、彼はそう言って目を細めるだけだ。
出発前に写真を撮って欲しいと声をかけてきた女性に愛想が良すぎるくらいに答えていた時は、「頭と下半身がはっきり分離している」だなんて言われていたけれど。……それでも、部屋の中には踏み入らずに優しく扉の前までエスコートする姿は、しっかりした人だなあ、という印象を受ける。

「……ありがとうございます、ポルナレフさん」

頭を下げると、「お礼はキスでもいいんだけどな」と笑うのが抜け目ない。そんな冗談は聞かなかった振りをして笑うと、軽く頭を撫でられた。大きな掌が、優しく、わたしの頭を撫でる。
ポルナレフさんは暫くそうしていたけれど、少しだけ声を落として、「すまない」と言葉を零した。その言葉が寂しげで、わたしは思わず瞳を覗き込んでしまう。
迷うように視線をさ迷わせた彼が、最後にそっと髪を撫でた。

「妹……シェリーの話をした時、酷く心を痛めていただろう」
「……え、」
「女性にはショックの大きい話だったな」
「あ、……あの、わたし」

なんと言えばいいのか分からずに、体が固まってしまう。きっと酷く情けない顔をしているわたしを見て笑ったポルナレフさんが、優しくわたしの背を押した。

「ゆっくりお休み。何かあったら起こしに来るから」

ぱたりと、扉が閉まって部屋を静寂が満たしていく。わたしはそのままベッドに座り込んで、ぼう、扉を見つめていた。

ポルナレフさんの妹であるシェリーさんは、スタンド使いに殺害されたのだという。乱暴を働かれ、胸を切り裂かれた。そのスタンド使いはディオの仲間となっている可能性が高く、その男を見つけるために、ポルナレフさんは旅へ同行することになったのだ。
痛ましい事件の話を聞いた時、わたしは心臓が冷えるように痛んで、ただ唇を噛むことしか出来なかった。悲しさか、悔しさか、どう表して良いのか分からない感情が渦を巻いていた。

「気を遣わせちゃった……」

ベッドに体を沈める。ぽつ、と情けない声が出た。身体は酷く疲れて重いけれど、先程のことが思い返されて寝付けず、わたしはただじっと、近い天井の木目をぼんやりと見つめていた。