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翌日。
朝食を鱗滝と一緒に取ると、早苗は彼から刀の取り扱いについて学び始めた。
刀剣の性能を刀鍛冶師として鋼鐵塚から学んだが、鱗滝からは剣士としての立場から会得する。
刀剣がどのような斬り方をするのか、実際早苗にはそういう感覚が分からない。

刀剣や槍もあらゆる武器には弱点がある、と鱗滝は最初に早苗に述べた。
端的に要点を絞って鱗滝は解説すると、早苗に一本の刀を持たせ今から登山して来いと言う。

「ある地点に、目印が置いてある。それを見つけたらとって返せばいい」


言われた通りに山を登るが、途端に早苗は難儀なものだと悟った。
まず、腰に差している刀剣がやけに存在感を発揮している。刀身が長い為、道を塞ぐ岩石を避けて歩くのも難しいし、斜面に生え茂る木々を縫って歩くのも一苦労だ。

早苗は何とか山の中腹にあった目印を見つけ出し、往路よりも慎重に元来た道を辿り、麓へと戻ってきた。
息付く間もなく、鱗滝は次々と早苗に課題を課した。



「…息が荒い。呼吸の仕方がなってない」
「呼吸…?」

組手をしていた手を止めた鱗滝に、早苗は不思議そうに見つめる。

「無駄な息遣いをするな。今度やったら、お前の腹に拳を入れる」
「え、ええー!?」

鱗滝の言葉に、早苗は正直に驚きを口にする。

「(無駄な呼吸をするなって…、呼吸をしないと辛いと思うんですが…)」

そういう嘆きは心の中にしまって置いた。


鱗滝の真意が分からぬ儘、時間だけが過ぎていく。彼は宣言通りに早苗の息が荒いと、容赦なく鉄拳を下す。
その内、だんだんと早苗は躍起になった。

それが功を奏したのか。
木刀を持った早苗が、丸腰の鱗滝に向かっていく。
間合いに入って打ち込もうとした早苗を交わし、鱗滝が彼女の背後を取る。その首に手刀を振り下ろそうとした時だった。

早苗は勢いよく振り向き、木刀を持った手を持ち直し、左手のみで鱗滝の横腹を突いた。

「…」
「あ、す、すみませんー!?鱗滝さん!
勢いよくやってしまいました!」
「…呼吸を使いこなせば、人であっても鬼と同程度の力を得られる。
鬼殺隊はそれを応用した呼吸法、それから剣術を組み合わせて鬼と戦う。

鉄明。お前は今用いた呼吸の仕方をどう理解したのか」
「…、無駄に呼吸を消費すると同時に体力が消耗します。
なので、ここだ!と思った時に深呼吸をして肺に空気を取り込んで、その勢いで打ち込みました」

早苗は鱗滝の言葉に、先程の行動を思い返しながら回答した。


その日の夜。
夕飯と片付けが終わり、早苗は手持ち無沙汰になってしまった。
現代のようなテレビや娯楽が少ないこの時代だ。
何か暇潰しのようなものを持って来れば良かったと早苗が思うと同時に、鱗滝は小さな灯りを頼りに箪笥から何やら取り出した。

「…」
「あ、あの鱗滝さんも彫り物お好きなんですね」

早苗の言葉に鱗滝は反応は見せなかったが、未だ天狗の面を取った所を見せたことがない彼が鑿を取り出した所をみて、早苗は彼に親近感を抱く。

しばらく彼の作業の邪魔をしないように、早苗は距離をとってその様子を見つめる。
誰かが熱心に黙々と作業をしている所を見るのは、何故だか心が洗われる。



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