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二年振りに再開した友の変わりように、杏寿郎は些か驚いた。同時に疑問が湧く。

何故、早苗は男装をするようになったのか。
二年顔を見ない間に、男の自分と同じような背丈になっていたことも驚きはしたものの、何故彼女が男の形(なり)をしようとしたのか分からない。
そして、そういう状態にあることを彼女が楽観的に捉えているということも杏寿郎は理解しかねた。

あの日、一人で死に物狂いで鬼と戦っていた少女の面影はない。
慎ましくも健やかに日々を過ごして欲しい、という杏寿郎の願い通りに早苗はこの里で新しい日々を送っていたようだ。
元気溌剌とした早苗の声を聞くと、彼女に初めて出会った日を思い出す。

鬼が暴れて半壊した家に救出に入った杏寿郎を見るや否や、少女は酷く脅えた表情をした。
鬼も何事かとこちらを振り向く。

「何だ鬼狩りか。
稀血の女を喰ったから、今の俺は大分調子がいい」
「…そうか。ならばお前の悪事はこれまでだな」

杏寿郎がこう言うと、鬼は咆哮を上げ飛びかかった。
間合いに入ってきた鬼を杏寿郎は薙ぎ払うと、鬼の身体は真っ二つになる。どうっと大きな音を立てて、いつの間にか離れ離れになった胴体と下半身に鬼は呆然としている。
そして合間を置かずに、杏寿郎は鬼の首を断ち切った。

「畜生畜生!子供も早く食べておけば…」

往生際が悪い鬼は、尚も言葉を発しようとする。塵と化した鬼を葬った後、杏寿郎は少女の姿を探す。

倒れた洋箪笥の陰に隠れ身を震わせる少女は、杏寿郎が顔を覗かせると、ひっと小さく声を出す。
彼女をこれ以上怖がらせないよう、杏寿郎は立膝をついて目線を合わせる。

「もう大丈夫。俺は君を助けにきた。
他にご家族は?」
「…お父さんとは離れて暮らしてるの。お母さんは…お母さんは…」

少女は健気にも話を続けようとしたが、言葉が詰まった。ぽろぽろと目から涙が零れ落ちる。


暫くすると、落ち着いた少女から聞き出したのは名前、別居した父の住所だった。
その情報を頼りに、杏寿郎は少女--早苗を父の元に帰そうと足を向けた。

ところが、早苗の父は自分の娘に向かってお前も死ねばよかったのにと言い放ったのだ。
それを聞いた途端、ふっと早苗は身体の力が抜け意識を失う。

「…やはりあいつの血は忌々しい体質だったのか。

鬼狩り。くれぐれも、今晩のことは口外するなよ。俺の経歴に傷がつく。
この子の身分はお前達に任せる。」

惨事に遭った娘に向かって、他人行儀な早苗の父の様子に、杏寿郎は愕然とする。

それは、ある日突然自分のことを否定する発言を繰り返すようになった父・槇寿郎の姿を彷彿とさせた。


人は共通点がある人物を好むようになる。
その点を踏まえるならば、杏寿郎が早苗を好むきっかけになったのが彼女の父の態度だろう。

早苗を見ると、自分のことのように放っておけない。身内として認識してしまうし、一人の女性として幸せになって欲しい。

異性の身なりをするようになったのは、仕事の特性であるなら仕方ないことだが、彼女にとっては一生この姿でいるらしい。


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