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早苗と杏寿郎は鉄珍の屋敷にて、思い思いに過ごしていた。
早苗が木彫りをしていると、杏寿郎が興味深そうに横から覗く。

「杏寿郎もやってみる?」
「見ているだけで充分!早苗の感性は素晴らしいと思う」
「…ありがとう」

引き続き作業に戻る早苗の傍らで、杏寿郎は本を読みながら完成を見守ってくれている。
そんな中、作業をしながら話を聞いてくれと杏寿郎が言うので同意の意味で早苗は頷く。

「早苗はこの先、その姿で生きていくのか?」
「…うん。この背格好だし、刀鍛冶師でいるには女でいると不便だ。

街に下りてみると、女の人達が寄ってきてくれるんだ。可愛がってくれるし、何より目の保養になる」
「…そうか」

早苗は作業の手を止めて、杏寿郎の方へ顔を向ける。

「半壊した自宅から探してもらって、耀哉様から何回かに分けて送って貰った小袖を、また着ることはないと思う。

着られないなら誰かに分けたいんだが、伝はないかなぁ?それか質屋に持っていくとか…」
「それでも、その内の何枚かは手元にあった方がいい」

杏寿郎の言葉に早苗は眉を顰める。

「…誰かにまた使ってもらった方が、ものが喜ぶと思うよ」
「それはそうだが」
「…」

杏寿郎の真意が分かり兼ねる早苗は、不安を顕にする。

「…いつか、その小袖が君にとって大切なものとなる。大事にしておかなければ」


杏寿郎の言葉に納得はしなかったが、確かに小袖には愛着がある。
女として着飾ることは今のところないが、久しぶりに着物の紋様をみて、早苗はこれらの小袖を着て街を闊歩していたのを思い出す。
そして、昔ありし両親との思い出を思い起こす。

「…」

行李に保管していた写真の中の幼い自分に、早苗は懐かしむ。
小袖を手分けして選別するのを買ってでた杏寿郎が、早苗の写真を覗き見る。

「幼い頃の早苗か!可愛らしい」

そう言われて照れて微笑むしかない早苗。
写真には椅子に腰掛ける母に抱かれて、つぶらな瞳を向ける小さな貴婦人のように映る幼い頃の早苗の姿があった。

「君のお母君のことを話しておくれ」
「話が急に変わるのも相変わらずだなぁ」
「お互いの家族自慢をしようじゃないか!」
「声が大きい!」

杏寿郎に振り回されるのは変わらないか…と早苗は思いながら、彼といると暖かい気持ちになることを実感した。
刀鍛冶の里に関わる人達とは異なる雰囲気に包まれる居心地の良さに、ずっと浸ってしまいたいと思った程だった。

「…母はこう見えて運動するのが好きだった。
乗馬が好きで、よく二人で馬に乗って遠出したことがあったなぁ」
「うむ、いい趣味だ」
「今度は杏寿郎の番」
「俺の母上は早くに亡くなってしまったが、お優しい方だった。彼女の言葉は今でも俺の指針となっている」
「…」

杏寿郎の母が既にこの世の人ではない、と初めて聞いた早苗は驚きを隠せなかった。
そして、そういう大事なことを事も無げに告げる彼の精神力は尋常では無いと思わせた。

「…"柱"になることだけが最終的な目標ではないが、母上と交わした約束を果たすにはそれが近道だ。
柱になるには、功名をたてなければならない」
「…杏寿郎なら、きっとなれるさ」

早苗の言葉を聞いて、杏寿郎は微笑んだ。

「早苗から言われると、なれる気がしてきた!」
「気がするじゃなくて、なるんです!」

杏寿郎の快活な笑い方に、つられて早苗も笑うのであった。



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