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刀鍛冶の職人は不定期に休みを取っている。
休むより手を動かしたいという生まれながらに職人という者もいる。鋼鐵塚は後者である。

当初、早苗も一日も休みはないという生活を送っていたが鉄珍から下された課題もあり、一日を余暇として過ごしている。
体力作りは元より、街におりて買い求めた書籍を読み漁ったり、最近は木彫りを趣味にしたりしている。

黙々と手を動かし、小さな木の欠片を鑿である物に形作っていく作業の楽しさは他と比べ物にならない。
出来上がった作品を鑢で磨いて畳の上に置くと、今まで傍らにいた小さな男の子がきらきらとした眼でそれを持ち上げる。

「わー!早苗姉ちゃんすごいー!」
「こらこら。小鉄。
早苗じゃなくて、鉄明だ」
「ふーん」

名前を正すように求めても興味が無い素振りを見せる小鉄に、早苗は苦笑いしながら彼を自分の膝に乗せる。
小鉄は、早苗が作った木彫りの兎を小さな手で輪郭を辿るように触っている。

小鉄は里唯一の絡繰技師の一人息子である。
彼の父が所用で出かけている間、早苗は子守りを買って出た。

「父ちゃんまだかなー」
「まだだねー」

些細なやり取りで、待ち人を望む二人だった。

程なくして自宅に帰りついた小鉄の父に早苗は一言二言交わし、子守りの任を解かれた。

「早苗ちゃ…いや鉄明くん、いつもありがとう。小鉄のお守りを頼めれるのは君しかいなくてなぁ」
「そんな全然構いませんよ!この休みの日を使って、小鉄と何して遊ぼうかなぁと思ってますから」

早苗の言葉に、小鉄の父は安堵した表情を浮かべる。

「小鉄。留守の間、いい子にしてたか?」
「当たり前だよ、父ちゃん!
早苗姉ちゃんまた上手に鑿を使えるようになっててたよ!」
「そうか!どれどれ…」

我が子が天高く掲げる木彫りを注意深く見つめる小鉄の父に、内心緊張しながら早苗は自分が作ったものをどう評価されるのか待った。

前足を伸ばし後ろ足は屈曲し、今にも跳躍しそうな兎の木彫りである。

「…なかなかいい出来だと思う。鉄明は元々そういう素質があるんだよ。」
「…ありがとうございます!」

自分への評価に早苗は満面の笑みで返した。

「特に前足の部分がなぁ…こうすることで、飛び上がるという表現が浮き出てくるから、より想像を掻き立てられる」
「よかったね、早苗姉ちゃん」
「ありがとう小鉄。早苗姉ちゃんじゃないけどな。…それあげるよ。」



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