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炎の中に自分の曽祖父の記憶を覗いた日からというもの、早苗はふとした時に思い出すのであった。

曽祖父は何のために記憶に甦ってきたのだろうか。何を伝えたかったのだろう。
曽祖父の言葉自体、消極的な感情の顕れだったので早苗は真意が分かりかねた。

そもそも、"彼"が本当に曽祖父なのか分からない。写真もない時代の人なので、早苗は彼の事をたまに耳にする評判から想像するしかない。


早苗が体験した不思議な現象を鉄珍に伝えると、彼も鋼鐵塚と同じ事を言う。

「…何かを伝えたいから甦ってきたんでしょうか」
「まあ、それしかないやろ。
或いは早苗の…鉄明の心の奥底にある潜在意識が、何かを求めて生み出したのかもしれん」
「…先代の、鉄明さんの刀は残っていないんでしょうか。

才能がない、普通の人間だと言っていたのですが、それでも先祖代々この里に暮らしていたのでしょう?
どういう物を作っていたのか知りたくなりました」
「…あらへんよ。
鉄明がこの里から出る前に、みーんな溶かしてしまったらしい。
…それくらい、己の作品を残したくはなかったみたいやな」
「…そうですか」



刀匠という身分を捨てた曽祖父が歩んだその後の半生は、想像に難くない。
興した商業が上手く行き、祖父の代には事業を広げ成金になった。都内に豪邸を造成し、早苗はそこで十一になるまで育った。

曽祖父から祖父、そして父に渡り三世代に築いてきた道は早苗に続いている。
そして皮肉な事に、曽祖父が中断した刀鍛冶を曾孫の早苗が受け継ごうとしている。
遠い昔に生きていた曽祖父が、この折に及んで早苗に何かを訴えようとしているのだろうか。

曽祖父の消極的な言葉と父の言動を思い出すにつれ、早苗は自分に纏わる二世代の男達が何だか憎めないようになった。
不器用な感情しか持てない彼らと、自らも同じようなものだと思うようになると不思議と愛おしい気持ちになる。




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