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「男性の振りをしてみるのもなかなか難しいよねぇ」

と口に手を当てて考え込む仕草をしながらカナエはぽつりと言葉を零す。突然の言葉に早苗は反応出来ずにいたが、カナエはこう続けた。

「芝居の話にはなるんだけどね。

歌舞伎なら女形という役があるじゃない?
その人達は日常生活でも、女性らしく立ち振る舞っているんですって。
だからあんな風に艶がある仕草が出来るのね」
「な、成程…」

カナエから言われてみて、早苗は手本となる男性像がないか脳内で探ってみる。
一番に思い出したのは杏寿郎である。

「煉獄君かぁ…そうか、そうよね。ふふふ」
「…どうしたんですか?カナエさん。

後は…父親ですかね。あれ程、男性像にこだわった人はいませんから」
「…嫌な事思い出させてしまったわね。ごめんなさい」
「そんな…!カナエさんが謝ることはないですよ!」

カナエからの突然の詫びに慌てふためく早苗。

「…ああ言ったものの、早苗ちゃんの好きなように男性を演じればいいのよ。私の言葉に囚われないでね」
「…はい」
「…でも、少しだけ心配な事を言うと…

どれだけあなたが男性として振舞おうとしても、あなたは身体は女性である事は忘れないで。
…月のものはまだ来てないのかしら」

月のものとは所謂、月経である。思春期の入口に立っている早苗の身にはその兆候はない。
早苗は訝しげに頭を振ると、カナエは続ける。

「今は来ていなくても、いつか訪れるものよ。

…"鬼"はとりわけ女性の身体と血を欲する。
それは、男性よりも身体に栄養を蓄える力が優れているから。
あなたのお母様は稀血という身体的特徴があったけど、子供のあなたにもそれがないとは言い切れない。そしてあなたはもう直、大人の女性になるという時期に差し掛かってている。

一歩外に出れば、鬼の格好の的になることを伝えておきます。

… 早苗ちゃんが充分気をつけておけば、自分を守れる力があればきっと大丈夫。あなたは強いもの。」
「…カナエさん、ありがとう。
耀哉様から頂いた藤の香袋を肌身離さず持っています。

…私も何となく気づいてた。母に所々似ているから。
黒髪は父譲りだけど、身の丈とか瞳が灰色の所とか、彫りが深い所…。稀血がひょっとしたら、私にも流れているかもしれない。

心配してくれてありがとう。でも、前線に立つカナエさんの事が私は心配です」

カナエの暖かくも厳しい言葉を受け止めて、早苗は実際に鬼と闘う鬼殺隊隊士へ思いを馳せた。




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