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医学に明るいカナエの言葉のお蔭で、現実的に考えてみれば女性から男性になるという考えは浅慮であると早苗は思い直せた。

己という器の中に、女性という生物学的要素が含まれているというだけで困難な状況に陥ってしまう。
何と、もどかしいことなんだろう。段々と込み上げてくる感情の行き場が分からぬまま早苗は唇を噛み締める。

「…鬼殺隊の隊士は男性が多いのは明白なの。
女の子も僅かながらにいるわ。ただ最終選抜をくぐり抜けて隊士になれたとしても、実戦ではやはり鬼には敵わない。

前日に会話していた人も、次の日には荼毘に付されるのを何回も見たことがある」
「…」
「…私も妹も、明日をも知れぬ思いを抱えながら毎日を生きているわ。
だけど不思議と怖くないの。
刀鍛冶師の皆さんが心を込めて玉鋼を磨き上げて、刀剣という素晴らしいものを作り上げてくれて、私はその刀を携えて戦えるから。

…私もいつか、早苗ちゃんの作った刀を腰に差したいなぁ。」

カナエはいつものように柔らかい笑みを浮かべているが、どこか儚い。
早苗の今までもどかしさで溢れていた感情が、カナエの表情を見ただけで霧散してしまった。

不条理な事にでも行きあたらなければならないのは、何も自分だけではない。
立場は違えど思う事は等しい。

そう思うと、早苗は刀鍛冶をする上での動機がより鮮明に見えてきた。

「…カナエさん。
私、いや…俺。もっともっと頑張ります。

師事している刀匠に認めてもらって本格的に刀を打てるようになるまで、時間がかかるかもしれないけど…目標が出来たから、それに到達するまで奮闘あるのみです」
「…頼もしいわ。
じゃあその時は、よろしくお願いしますね」

はい、と自分の言葉に胸を張り返答する早苗を愛おしいという感情で持ってカナエは見つめる。そして、彼女の行く末を案じる。


早苗の外見的特徴は身丈の高さである。
恐らく、初潮が来てしまえば身体つきは女性らしくなるだろう。
その事が彼女にどのように影響を及ぼすのだろうか。と既に経験している身としてカナエは心配に思う。
早苗が鬼殺隊隊士にならず、刀鍛冶の里で穏やかな日々を過ごして欲しいと願うばかりである。



「…男になりきるのはいいんだが、お前の言い方はずっとそのまんまか?気味が悪ぃ」
「…気味が悪い…ですか」
「おぅおぅ、正にそれだよそれ」

ある日のこと。
鋼鐵塚が珍しく短い休憩時に話し出したかと思えば妙な事を言うので、早苗は怪訝そうに顔を顰める。

「なんつーか、お前の言葉は嘘っぽいんだよ。
バカ丁寧すぎてな」
「う、ううー…ん。そう言われても…!」
「俺みたいにもうちょい砕けた言い方してみりゃー、楽だと思うがね。
俺と話す時はそのバカ丁寧な言い方止めな」
「は、はい…」
「はいじゃなくて、おぅ!とかあんだろーが!」
「お、おぅ!」

それからというもの、早苗が鋼鐵塚に話しかける際に「ですます」調のような丁寧語だった場合に、彼に睨みつけられるか或いは物を投げつけられて言い方を直すように半ば強制的に躾られた。

日にちが経てば、習慣づけられた男性的な物言いにつられて早苗の立ち振る舞いもそれっぽくなった。
粗野ではないにしろ、大胆に動くその様子は益荒男ぶりである。

何かが憑依したかのように人が変わった早苗を心配する者もいたが、日にちが経つにつれて男装を解く気がないというのが分かり、飽きれながらも受け入れつつある。

しかしながら、早苗の頭の隅には身体的に女性となる日が来るのだという近い将来への不安や覚悟が現れては消えたりしていた。




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