×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


それからの数日間、早苗は療養のためにある屋敷に滞留した。

屋敷の女主人は、その細腰に帯刀していることから煉獄少年と何らかの関わりがあるらしい。
女主人並びにその妹は医学、薬学に精通しており、鬼の襲撃により身体が傷ついた早苗を看病してくれた。

しかしそれでも尚、早苗の心は深く傷ついた儘だ。
1人きりになると思い出すのは、鬼に貪り喰われる母とそれを呆然と見るしか無かった己の不甲斐なさと恐怖、何より父親に言われた言葉だった。

母もろとも子も死ねばよかったと言い放った父親の言葉が一つ一つ重くのしかかり、早苗は思い出す度に自らを死ぬべき人間だと思うようになっていった。

「…顔色が悪いわ。どこか痛むの?」

毎朝早苗の様子を窺いにくる女主人・胡蝶カナエは、ある日心配そうに尋ねてきた。
カナエを見遣る早苗の表情は感情が乏しい。
しかし日本人離れした肌の白さは、早苗の体調の具合を一目で分かるようになっていた。

早苗が頭を振るのを見るとカナエは困った表情を浮かべる。
感情の乏しさは生来の彼女なのか、あるいは環境の変化によるものなのかカナエは推し量る。

「…お館様が、今後のことについてお話したいそうよ。
あなたの体調の様子を見て、面会したいみたいなんだけど…」
「…身体の方は大丈夫なので、いつでも構わないです。
私もお話をしたいと思っていました、とお伝えください。」
「…分かったわ。お腹は空いてない?
朝ご飯ちょうど出来上がっているの」


2日後。早苗は再び"お館様"の屋敷に赴いた。
道中、屋敷の場所を特定してはいけないとのことで黒装束に身を包んだ性別不明の人物に引率された。目に入ってくる情報を目隠しで遮断するという徹底さも為された。

早苗が通されたのは小さな客間で、縁側から見える庭園には桜の花びらが舞っていた。
それをぼんやりと見つめる早苗は「…綺麗」と一言口にした。

それに少しだけ驚いたのは、カナエの妹・しのぶだ。
ここ数日感情を表にだしたことがない早苗が、花びらが舞い散るような状況に感想を述べるだなんて思いもしなかったのだ。
驚きつつも、早苗の言葉に続けるようにこう述べた。

「…お館様の御屋敷に生える草木は、お館様が自らお手入れなさっているの。
こうして美しく咲き誇っているのを見ると、任務から帰ってきた時に心が洗われるのよ」
「…そう」

しのぶの言葉に短く返答する早苗は相も変わらず表情が乏しかったが、少しだけ口角をあげているのをみてしのぶは少しずつ彼女の心の氷が融けているのだと思った。

「… 早苗、しのぶ。遅れてごめんね」
「あっお館様…!」

慌てて頭を下げるしのぶに、"お館様"は柔らかい笑みを浮かべる。




(1/2)