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1999年11月某日



「ん〜〜〜… よく寝た!」



久々に食堂のアルバイトがない朝。
いつもより少しだけ遅く目を覚ました螢は、すっきりしたような顔をしていた。
身支度を済ませ部屋を出ると、少女よりも早起きをしていた子供達がこちらに向かってくるところだった。



「おはよう」

「「「 おはようございます! 」」」

「ゆっくりお休みになれましたか?主様」

「うん。ちょっと寝坊しちゃった」

「螢さまはいつも早起きだもん」

「たまにはお寝坊してもいいと思う」

「ふふ、ありがとう」



他愛ない話をしながら葉達がいる部屋へと向かう。
きっとたまお達が食事を用意して待ってくれているだろう。

移動中にふと螢は子供達に今日の予定を告げた。



「申し訳ないけど、今日は自由行動にするね」

「え?」

「修行、つけてくれないの…?」

「ごめんね。久々にゆっくり出来るから、色々調べたいことがあるの」

「そう、ですか…わかりました。アリス達にお手伝い出来ることはありますか?」

「ありがとう。でも、大丈夫。無理はしないから心配しないで」



螢は優しく微笑み三人の頭を撫でる。
子供達は照れたように笑うと、少女に抱きついた。
全身で 大好きだよ と伝えるように、螢も抱き締め返す。

その様子を優しげに見つめる影。
しかしわざと盛大な溜息を吐くと、なかなか食卓に来ない少女達に声をかけた。



「いつまであたしを待たせるつもり?」

「ごめんごめん。おはよう、アンナ」

「「 ごめんなさい 」」

「おはようございます、アンナさん」

「おはよ。この子達は預かってあげるわ」

「ありがとー!アンナ、大好き!」

「…知ってるわ。ほら、朝食にするわよ」

「はーい」




























朝食を済ませた螢は子供達をアンナに任せ、選手村を歩き回っている。
ただ散歩をしているだけのように見せかけながら。それは十祭司の目を欺くため。
そして、ハオとオパチョの意識の範囲外に出るように、なるべく遠くへと向かっていた。

歩きながら己の身に纏う結界を少しずつ強めていく。
気配を断ち、姿を隠すために。今の螢を見つけ出すのは、不可能に近い。

少女はパッチの監視カメラに映り込まぬよう注意しながら遺跡の中へ。
逆走するようにメサ・ヴェルデデ方面へと遠ざかり、遺跡が崩れ人が寄りつかない場所を見つけると、ようやく足を止めた。



「………此処なら大丈夫かな」

「随分と用心したな」

「うん。絶対にバレるわけにはいかないし」



狐珀の問いかけに返事をすると、鞄の中から小さなノートを取り出した。
空白のページをパラパラと捲ると、螢の巫力にだけ反応するように綴られた、いくつもの情報が浮かび上がる。



「調べものと言うておったな」

「どちらかというと、知っていることの整理をしたかったんだよね」

「…他の参加者や十祭司のことか」

「うん。引っかかることが多くて」



自身がハオ達の元にいた間に葉達が知り得た情報。
チョコラブが知る情報。
ガンダーラとX-LAWSの存在。
“麻倉” の動向と、シルバの妙な行動。

事実と情報を洗い出し、点を繋ぎ合わせていく。
接点のない事象もあるように見えるが、必ず因果関係がある。その確信だけはあった。
このS.F.はハオを中心に複雑に絡み合っている。1000年前から続く、因果。


螢は黙ったまま文字を綴っていく。
一つずつ詳細を書き込んでは “繋がり” を導き出すように頭を働かせる。



「妾が気になるのは十祭司じゃ」

「…私とハオの接点を把握してないからでしょう?」

「うむ。特にシルバという祭司、よほどあの小僧が憎いと見える」

「おそらく…だけど」

「む?」

「………500年前、ハオはパッチ族に転生していた。シルバさんは…子孫、なんじゃないかな」

「…そうであれば説明はつく、か」



パッチはS.F.運営のため、参加者には平等で中立でなければならない。
しかし、シルバは葉に肩入れしているような言動が見受けられる。
彼の中にも、ハオへの憎しみが感じられるのだ。

葉達が知った500年前の情報と現在を照らし合わせれば、自然とその答えに行き着く。

そしてそれが事実であったなら。
シルバが一族の中でどのような仕打ちを受けてきたのか、想像するのは容易だ。



「私達の接点を把握してないのは、納得いく理由がないけどね。マグナや二クロムが情報を操作していたとしても、彼らは知らなすぎる」

「そうじゃな…」

「X-LAWSも私の情報を集めてるけど、パッチほどの脅威ではないかな。結局彼らの “監視” も無駄に終わっただろうし。ハオと葉のことすら把握していないからね」

「あくまで “麻倉” としての繋がりしか知らぬ、ということか」

「うん。X-LAWSについてはラキストから教えてもらってるし、今の彼らには なるべく関わりたくないね。まぁ、おじいちゃん達が簡単に “麻倉” の情報を盗まれるとは思えない。ただ、ガンダーラが “麻倉” に関わってくるとどうなるかは…」

「彼奴らは何者なのじゃ」

「ハオの被害者ってわけではなさそうだけど、“麻倉葉王” を知ってる人達、かな。ガンダーラの目的は私の思いに近い。いつか私にも接触してくると思うんだ」

「どうするのじゃ」

「断る。私は私にしか出来ない事をする」

「承知した」



再び口を閉ざした螢を狐珀は見つめる。
真剣でありながら、どこか後悔を滲ませた瞳に、胸が痛む。


螢がどんな未来を描いていたとしても、妾は其方の傍に居る
決して独りになどせぬ
じゃから一人で抱え込むな
妾が共に背負ってやる


誰にも頼らず戦い続ける少女が綴る未来。
それはまだ誰も知り得ない。
既に “登場人物” になっていることにも気付かずに。



「───よし、こんなものかな」

「終わったか」

「うん。次に行こう」

「………承知した」



狐珀の返答を受け、少女は静かに歩み出す。
光の差す方へ歩き出す少女は、何処へ向かっているのか。






“役者” は揃ってきてる
あとは無駄にしないだけ

後悔しても 遅いから
私はこの “魂” を貫く

一度きりのチャンス
無駄にはしない







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