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1999年10月某日



昼食を終えた昼下がり。
穏やかな陽気に誘われ、螢は目的もなく散歩をしている。

子供達の修行は午前中に終えているため、午後は自由時間。
共に出かけても構わなかったが、自分達で修行を続けたい と言われたために暇を持て余してしまったのだ。



「クルーッ!」

「わっ」

「クックルクー!」

「ふふ…くすぐったいよ、コロロ」

「コロロー!突然どうし……って、螢見つけたからか」

「こんにちは、ホロホロくん。少し久しぶりかな」

「おぅ!悪ぃな、螢に会えなくてコロロ寂しがってたからよ」

「そうなんだ。私も会いたかったよ、コロロ」

「クルッ♪」



螢はそう言うと柔らかく微笑み、腕の中で嬉しそうにしているコロロを優しく撫でた。
チーム毎で修行をしているため顔を合わす機会が減り、寂しさを感じていたのは少女だけではなかったようだ。

ちょうど休憩中なのだと言うホロホロに、螢は少し話でもしないかと問いかける。断る理由もなく、ホロホロは提案を受け入れた。
近くにあまり人が来ない静かな森があるとのことで、少女は楽しそうに話しながら並んで歩く。
数分歩いた頃、目の前に広がったのは草木の香りが心地良い拓けた場所だった。



「風が気持ちいいね」

「だろ!? やっぱ自然はいいよなー!コロロも喜ぶしさ」

「コロポックルって、確か “フキの下の大地の精霊” …だっけ」

「あぁ。 ……コロポックルは人間の身勝手な開発の所為で住処を奪われた。だからオレの夢は、でっけーフキ畑を作ることなんだ」

「……そっか。素敵な夢だね」

「おぅ!オレの夢はでっけーんだ!」



ニカッと笑うホロホロの顔を螢はじっと見つめる。
何も言わず見つめる少女の視線に照れるホロホロの言葉を聞き流し、ゆっくりと口を開いた。



「───本当に、それだけ?」

「………は…?」



ザァ……ッと強い風が吹く。
その一瞬の間、螢の髪が風に靡き顔が隠された。



「ホロホロくん。逃げてばかりはいられないよ」



どんな表情で、どんな瞳で、その言葉を投げかけたのか。
ホロホロにはわからなかった。うるさいくらいに心臓が脈打ち、手には汗が滲む。


責めているわけではない。諭しているかのような、声音。
知られたくないことを知っているかのような、核心を突いた言葉。


冷水を浴びせられたかのように、血の気が引く。
風が止み少女の顔が見れるようになっても、ホロホロは頭が真っ白になり何も見えていなかった。



「クル…?」

「コ、ロロ……」



いつの間にか己の傍に戻ってきていた持霊が、心配そうに見上げている。
現実に引き戻されたホロホロは、恐る恐る螢の顔を見た。
螢はにっこりと笑い、コロロへと手を伸ばしていた。



「受け入れ難いモノほど本質を捉えてる。大事なモノはいつだってすぐ傍にあるんだよ。キラキラ光りながらね。ホロホロくんならきっと見つけられる。ねー、コロロ」

「クックルー!」

「螢………お前…何 言って……」

「ふふふっ、コロロは本当にかわいいね。妹にしたいくらい」

「クル?」

「うん、かわいいよ」

「クルル……」

「ふふ、照れちゃった」



コロロに構う螢はいつも通りのままで。
ホロホロは混乱する頭とバクバクとうるさい心臓の音を落ち着けるように深呼吸をする。


隠した過去に、もう一度、蓋を


その様子を悲しげな瞳に捉えられているとも知らずに。









現実は、真実は、いつだって残酷だ
けれど逃げてはいられない

受け入れなければ、それは偽りになる


怯えないで
否定しないで

君はもっと強くなれるから







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