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第11廻 その娘、諭す





1998年 初夏
病院



「葉っ!!」

「誰!?」

「螢殿…!申し訳ござらん、拙者が憑いていながら…っ!」

「いいのよ、阿弥陀丸。葉は生きてる。あなたも無事だったんだから」



ベッドに眠る葉の姿に涙ぐみながら、阿弥陀丸のことも気遣う。
そう言いながらも、その瞳は心配と安堵と悲しみで揺れていた。



「あの…」

「あっ、ごめんね!君、小山田まん太くん、よね?」

「あ、はい。そうですけど…」

「いつも葉と仲良くしてくれてありがとう。姉の螢です」

「お、お姉さん!? はじめまして!」



慌てて頭を下げる。


うわぁ、綺麗な人だなぁ
それにすごく優しそう


本当に心配そうに葉のことを見つめる螢を見て、まん太はそう思った。
そして、次は驚きの声を上げた。



「なにしてるのー!?」

「まん太殿! 静かに」

「阿弥陀丸…」



葉の肩に当てた螢の掌から、淡い光が出ていたからだ。



「陰陽術の一種よ。治癒術、っていうのがわかりやすいかな」



未だ血が止まっていなかった傷口が、少しずつ塞がっていく。
包帯の下なのでその様子はわからないが、しばらくの間、螢は静かに力を注ぎ続けた。



「…うん。これで大丈夫かな」

「えっと…」

「驚かせてごめんね」

「あ、いえ… なんか、妙に納得しちゃったから」

「納得?」

「葉くん、怪我してもけっこうすぐ治ってたから… 螢さんが治してくれてたんだな、って」

「ふふ、そういうことね」

「螢殿、葉殿は…」

「傷口は塞がったから、大丈夫。まん太くん、包帯変えるの手伝ってくれる?」

「え?」

「入院初日であれだけの傷が塞がってるのをお医者様が見たら、大変だから」



困ったような笑みで言う。
まん太は意味を理解すると、慌てて葉の身体を支えた。
包帯に隠されていた肩は、傷跡はあるものの、綺麗に塞がっていた。




















「───何者だ」

「葉の姉」



己の部屋に突然現れた謎の女。
不機嫌を露わに少年───道蓮は、螢を睨んだ。

螢は阿弥陀丸とまん太から蓮の特徴を聞き、赴いてきたのだ。



「フン!敵討ちにでもきたのか? オレは今、機嫌が悪い!馬孫!」

「此処に!」

「私は話に来たのよ」

「「 !? 」」



憑依合体をしようとした刹那、目の前にいたはずの人物が真後ろに。
たしかに人魂モードとなっていたはずの馬孫は人型に戻っている。



「…悲しい子… 破壊はなにも生みださない。あるのは、憎しみだけよ」

「!!!」

「君ならわかるでしょう? ───優しい心だもの」

「キサマァ!! ワケのわからぬことをベラベラと!!」

「わかってるはずだよ。君は、私を殺せない」

「…っ!!! ───馬孫っ!!!」

「はっ!」

「…下がれ」

「坊っちゃま…?」

「ええい!何度も言わせるな!! 下がれ!!!」

「は…ハッ!」



静寂が二人を包む。

何故、この女の言葉に耳を傾けようと思ったのか。
答えはわからなかったが。



「ありがとう」

「何のことだ…」

「………私は麻倉螢。いきなり来てごめんね」



オレが、憎くはないのか
キサマの弟を、殺そうとしたのだぞ


目の前の少女を睨みつけるのが、蓮が唯一できることであった。
自分の知らない “なにか” を持つこの人物が、得体の知れなさが、向けられる眼差しが、蓮にとっては不快だった。



「───大丈夫だから」

「は………?」

「変われるよ。変わりたいって思いさえあれば、変われる。今はわからなくても、きっと君は辿りつける」

「意味がわからん。戯言を言いにきただけなら」

「君は、わかってる」

「っ!!」

「魂は偽れない」



凛とした力強い声が、鼓膜に響く。
真っ直ぐな美しい瞳が、己を捉える。
全てを見透かしているような、全てを包み込むような、恐ろしさ。

逃げられない。逃げ場など、ない。
居心地が悪いはずなのに───縋りたくもなる。



「時間はかかるかもしれないけど、大丈夫だよ」



抱き締められる。
現実に理解が追いついても、抵抗する気など、もはや沸いてこなかった。

暖かい。その温もりが。
蓮には怖かった。



「───私は、君を許すよ」














知らないなら、知っていけばいい

あがいて もがいて
立ち止まって、ぶつかって、悩んで、苦しんで

迷いながら 間違えながら
それでも前を向いて、生きていく

そうして強くなっていくんだから───









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