第12廻 その娘、友達
1998年 初夏
病院
「ええ───っ!!! この娘(こ)が葉くんの…許嫁だってェェエッ!?」
驚愕の叫び声が木霊する。
ここが病院だということを忘れたかのように、小山田まん太は声を張り上げた。
自己紹介も終わりアンナがまん太にビンタをくらわせた頃、螢が病室へとやってきた。
「アンナ!早かったね、久しぶり!」
「えぇ。連絡ありがと、螢」
「ねえちゃん!」
「葉っ!よかった…っ」
「心配かけてすまん…」
目を覚ました葉の姿を確認し、涙ぐむ。
その姿に葉は心底申し訳なさそうに謝罪した。
「ちょっと、葉。螢を泣かせるんじゃないわよ」
「すまん!」
「え、あ…」
「こんにちは、まん太くん。いつものことだから気にしないで?」
「こんにちは…… はぁ…?」
「さっさと買ってきなさい、おチビさん」
その一言に、逃げるように病室を飛び出す。
その後、あとを追うようにやってきた葉から詳しい話を聞いたまん太は、またしても声を張り上げるのであった。
「───遅い」
「なっ!? 何をするでござるか!?」
「お黙り」
「あらら…」
「螢殿!助けてくださらぬか!?」
「…ごめんね?」
「!!!」
アンナの数珠に縛られた阿弥陀丸は螢に助けを求めたが、困ったような笑顔で謝られてしまった。
味方がいなくなった阿弥陀丸は、大人しく悔し涙を流す。
「あたしもこっちで暮らすわ」
「うん。ウチでいいでしょ?」
「そのつもりよ」
「葉も起きたし、先に帰るね」
「あら、どうして?」
「今日はご馳走にするから」
「…まったく、螢に家事させてるなんて」
「ふふ… 今日は退院祝いも兼ねてるから。許してあげて?」
「相変わらずね」
「褒め言葉として受け取ります。またあとでね」
「えぇ」
アンナに一度抱きつき、病室を出ていく。
その会話と光景を目にした阿弥陀丸はポカンとし
「なに?」
射殺す勢いで睨まれた。
「ただいまー」
「おかえりー」
「…ただいま」
「おかえり、アンナ」
着替えをすませ、食卓を囲み。
色とりどりの豪華な食事を楽しみながら、今後について話す。
「───で?螢は参加するの?シャーマンファイト」
「うん。どんな人達が集まるのか興味あるし」
「ぅえっ!? ねえちゃんも!?」
「それに、葉のサポートもしてあげたいから」
「ねえちゃん…」
「そ。なら螢もあたしのスペシャル修行コース受けなさい」
「他に用事がない日はお願いするね?」
この話題はここまでで終わり、螢とアンナはテレビを見る。
後片付けをしようとしたところ
「螢にやらせるんじゃないわよ」
アンナの一言で、葉が洗い物を買って出たからだ。
また数珠で縛られてはかなわないと、阿弥陀丸は慌てて葉の後を追う。
「葉殿、拙者いささか不思議なのでござるが…」
「お?どうしたー?阿弥陀丸」
「あのアンナという娘、螢殿には やけに…その、甘いような」
「ああ、ねえちゃんとアンナは友達だからな。ねえちゃん、優しいだろ?だからアンナもねえちゃんのこと、大好きなんよ」
「………」
「阿弥陀丸?」
「納得いったでござる。螢殿の優しさは、拙者も身に染みているでござるのでな」
「うえっへっへっへ」
のんびりとした穏やかな時間。
それは、明日から始まる嵐の前の静けさにすぎなかった───
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