とあるクルーの見解

ハートの海賊団は少々浮き足立っていた。
それと言うのも、船長であるトラファルガー・ローがとある拾い物をしたからである。問題なのはその拾い物が珍しく人間の女であったことだ。

敵船から連れてきたわけでも、島で拐ってきたわけでもない。海で溺れていた所を彼自ら指示を出して拾ったのだから、彼を知る人物は大層驚いていた。


そして、説明するためにクルーへ召集命令が下されたのがついさきほど。クルー達はものの数分で集まり、今か今かと瞳を爛々と輝かせて待っていた。

あちこちでむさ苦しい男どもが頬を紅潮させながら互いに話しているのを、わりと目立たない食堂の隅で見ていたとあるクルーは深い深いため息を吐き出す。
正直言って、この光景は気持ち悪い。
仕方のないことだとも思うが、どうにも納得がいかなかったのである。


「おい、ペンギン。そんな顔してどうしたんだよ」
「シャチか……」


呑気な声の主を見れば、彼も他のクルー同様テンションが高いことがわかった。


「お前ら、ほんとムカつくぜ」
「は?」
「……何でもない」


眉間に皺を寄せていった言葉は、聞こえなかったらしい。
ほんとその呑気さが憎たらしい。
心中呟いた所で食堂の扉が音を立てて開いた。


斑模様の入った帽子、ジョリー・ロジャーがかかれているパーカー、ダルメシアン柄のジーンズ。極めつけに、通常よりも長い太刀を持った手には“death”と物騒な5文字が彫られている。
ハートの海賊団船長、トラファルガー・ローが入ってきたのだ。
そして、それに続いて一人の女が入ってきた。
否、彼女は“女”というには幾分か幼い印象だ。しかし、少女と言うには大人で。
とにかく、第一印象は不思議な雰囲気を持つ人だった。

彼女は一気に注目を浴びたことに驚いたのか、目を丸くして船長に身を寄せた。その時に船長の服の裾を掴んだのは無意識か。
周りを大勢の男に囲まれて怯えない人間はいない。
しかも、こんな強面の人間であればなおさらだのこと。
しかし、少女は怯えのである色を宿しながらも、その瞳には警戒の色までも浮かばせていた。
白銀の長い髪、紅色が強い紫の瞳、整った容姿。スタイルも細身ながら出るところは出ていて申し分ない。そこらの娼婦にもひけをとらない美女である。


「こいつは次の島まで乗せる。客人の扱いだが、雑用なんかの仕事はさせろ。間違っても手は出すなよ。面倒だ」
「………」
「「「「……」」」」
「おい、」


紹介が終わってもなにも喋らない少女に、訝しげに船長は振り返る。
服の裾を掴まれていることに気づいているだろうに、振り払わない所を見ると彼も満更でもないんだろう。
少女を見る目はいつもよりも穏やかだ。
最も、今の時点では古株の奴ら位しかわからない位のものだったが。


「……アマミヤ・ヨウカ」


一言言ってまた隠れた少女は、警戒心の強い小動物だ。船長がそれを見てくつりと笑ったのを俺は見逃さなかった。
喧騒に包まれる食堂の中、一人のクルーは帽子のしたから少女を見る視線の強さを弱めることはなかった。

(警戒しとくことにこしたことはない。海王類の餌食にならずに助かるなんて偉大なる航路じゃないとはいえ、運が良すぎるのだから)


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