繋がれた二人の手
彼、赤司征十郎は挨拶もそこそこに瑠李をショッピングモールへと誘った。断りの言葉を並べる私に、これはお礼だからと押し切られて手を繋がれここまで来た。うろたえる私を見て彼は楽しそうに笑っていた。

彼は私をどうしたいのだろうか。
そんなことを瑠李が考えているうちにショッピングモールへついてしまった。
休日のためかなり騒がしい。隣には周囲の注目を集めている赤色の彼がいる。瑠李は頭を悩ませるが、彼は何食わぬ顔で先へ進む。手は依然として繋がれているため、逃げるに逃げられない。

「赤司さん、あの……」
「君は今何歳?」
「(……スルーですか)、10歳になりますが、」
「じゃあ、今小学五年生?」
「……家の事情で学校には行ってませんけど、行ってたらそうですね」
「日本は義務教育のはずだけど?」
「両親と一緒に海外を飛び回っていたので」
「じゃあ、今は一時帰国ってことかな?」
「ええ、まぁ……」

実際は母が出産を控えているため、とは、まだ知り合ったばかりの彼に言うことではないのでここでは黙っておくことにする。
瑠李は半ばあきらめの境地に達していた。
彼は何が楽しいのか口角が上がっているし、優しく細められる彼の瞳と重なると気恥ずかしくなって俯いてしまう。

「……あ、」

そうして逸らした視線の先にあった店に思わず足が止まった。小洒落た店頭に筆記体のスペルで店名が書かれたそこはアクセサリーショップ。
緻密で繊細な装飾が施されたアクセサリーが並ぶ店頭に瑠李は目を奪われていた。自分でも買えるような値段で、自分のような子供が身に着けていても不自然ではないようなアクセサリーの店。
何より瑠李の趣味ど真ん中だった。
瑠李につられて足が止まった赤司は、彼女の視線の先を見てクスリと笑ってそのまま店の方へ足を進める。

「え、あのっ」
「少しだけ見ていかないかい?」
「ぅ゛……」

穏やかに瞳を細めて彼女の答えを待つ赤司。瑠李は小さく唸りながら店と赤司をチラチラと見比べる。彼女の小さな葛藤に赤司は面白そうに眺めながら待つこと暫く。瑠李は恥ずかしそうに頬を染めて小さく頷いた。
その間も彼らの手が離れることはなかった。

「赤司さんはここによく来るんですか?」
「いや、あまり来ないよ」
「へえ……」

自分から聞いておいて興味なそうに相槌を打つ彼女に苦笑する。彼女はウィンドウの中を見ることで忙しいらしい。こうしている間は年相応で可愛らしい。

「あ、可愛い……」

店内を見て歩いている途中、目を奪われ思わずぽつりと呟いた瑠李。視線の先には緻密な銀細工の蝶にワンポイントにルビーがついているチョーカー。先ほどまで見ていたアクセサリーとは違い、ルビーはイミテーションではなく本物である。それ故か値段も高くなっている。

「どれ?」
「っ」

じーっと見つめていたせいか、赤司も瑠李が見ている物に気づいたのだろう。ひょこっと顔を出した彼に驚いて思わずのけぞるが、彼は気づかずにチョーカーを眺めている。

「あの、」
「うん。じゃあ、これにしよう」
「……ハイ?」

え、何が?
彼の気をそらそうと、彼の服の裾を掴んだまま瑠李は固まる。頭の中は疑問符でいっぱいだ。頭一つ分大きい彼を見上げると、彼はにっこりとそれはそれは素晴らしい笑みを浮かべて下さった。「ん?」なんて聞かれて、瑠李の中で言おうとしていた言葉はすべて喉の奥に引っ込んだ。そして、彼はおもむろに店員を呼ぶと件のチョーカーを指してのたまった。

「これを買うよ」

…………………What’s?
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