横暴。けど嫌いじゃない。
失礼。あまりにも頭が追いつかなかったせいで英語になってしまった。って、こんなこと言ってる場合じゃないぞ、瑠李!!ちょっと待ってくれ。こいつ、今、なんて言った!?
驚きのあまり瑠李の思考は数瞬の間停止した上、年上に対しての礼儀までかなぐり捨てていた。

「ままままま待って下さい!!!!」
「なんだい?」

穏やかに、いっそ楽しげに返答する彼が瑠李は信じられない。呆然とした面持ちで瑠李は、店員の手の中に移ったものを指さして抗議する。

「それを今回のお礼だと言うんでしたら、ぜっっっっっったいに受け取りませんからね、私」
「それは困る」

全然困ってない表情でそういう彼に、はっきり言って説得力はこれっぽっちもない。彼を瑠李は胡乱気に睨みつける。

「たかが生徒手帳を拾ったお礼がこれって、明らかにおかしいでしょう!?」
「俺がこれでいいって言っているんだから良いんだよ」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」

貴様はどこの王様だっ!!
もはやキャラ崩壊である。あまりにも傍若無人な物言いに、瑠李の心中は荒れに荒れている。
反論してくる瑠李が楽しいからか将又珍しいからか、赤司は終始楽しげに笑っている。待たされている店員は二人の話を聞き流しながら、ほほえましげに傍観している。

「とりあえず、それ買います」
「はい、畏まりました」
「言っときますけど、絶対に受け取りませんから!!!!」
「はいはい」

宥めるように頭を撫でられ、瑠李はぷくりと頬を膨らませてそっぽを向く。
そもそも彼に払える額ではないと思いちらりと彼らの方を見ると、彼の手元には黒光りする一枚のカードが。……先ほどまで微笑ましげに二人を見ていた店員さんも、顔を引き攣らせているように見える。開いた口も塞がらないとはこのことかと、一瞬現実逃避を試みる。
しかし、その間にも会計は済まされてしまった。結局彼の暴挙を瑠李にはとめられなかった。頭痛がしてきた気がして頭を抱える瑠李をよそに、赤司は品物を受け取ると彼女の手を引いて店を出てしまった。

「そんなに気に食わないかい?」

何が楽しいのかクスクスと笑う彼を瑠李は睨み付ける。
確かに自分も家柄上ああいった類のカードは持たされている。だが、破天荒な両親の散財っぷりに、過去、瑠李は地獄を見た経験上金銭に関してはそこそこ庶民的な感覚を持っていた。

「生徒手帳を拾ったお礼の対価としては、大きすぎると思います…………それは絶対受け取らないけど」

聞こえるか聞こえないかの小さな声で瑠李はぽつりと抗議した。途中で受け取るといっているような発言になっていることに気づいて慌てて小さく付け加える。最後の抵抗と言わんばかりに睨みつきで。ここに赤司征十郎を知る者が一人でもいたら、彼女の行動に震え上がっていただろう。しかし、幸運にもここにいるわけがなく。そして、睨み付けられている本人からしたら、そんなものも可愛いものとしか映っていなかった。
実際しっかりと瑠李の講義が聞こえていた赤司は、ますます楽しげに口角を上げた。

「じゃあ、そうだな」
「?」
「お腹はすいてるか?」
「すいて、ますけど……」
「なら、今回のお礼は昼食を奢るってことでどうだろう」

これ以上は何も言わせないと言わんばかりの彼に瑠李は頭を悩ませる。
なかなか結論が出ずにいる彼女の頭を赤司は撫でる。

「そんなに悩まなくてもいいと思うけど?」
「?」
「これは受け取って貰えないみたいだからまたの機会にするし、昼食の誘いも無理にとは言わないよ」
「……」

心なしか残念そうな表情になる赤司に、瑠李は「うっ」と断りの言葉を詰まらせる。視線を泳がせる彼女に、赤司は小さくため息を吐きそれまで繋いでいた二人の手を名残惜しそうに離した。
はっと瑠李は顔を上げると、慌てて赤司の服の裾を掴んでいた。
無意識の行動に我に返った瑠李は頬を染めて慌てて俯くが、握った服の裾は離さなかった。自分自身のことなのにわけが分からなかった。それでも、この手を離したく無いと思ったから。

「っ!」

赤司よりも背の低い瑠李が俯いていることで、彼女の表情は見えないが髪の間から覗く耳が赤く染まっている。小さな手が握って離さない服の裾。
彼女の可愛らしい行動に言葉をつまらせ、わずかに頬を染めて口元を手で覆う。
年齢の割に大人びた雰囲気を持ち、整った顔立ちの二人はどこにいても目立つ。そして、ここも例外ではない。休日で混雑するショッピングモール。多くの視線を二人は集めていたが、そんなことには気づいていない。

「じゃあ、行こうか」

服の裾を握る彼女の手を優しくとって、先へと促す赤司に瑠李は小さく頷いた。


―――*―――*―――*―――



「まったく、こう何度も脱走するんでしたら、今度から首輪でもつけましょうかねぇ」
「コワイデスヨー、トキツキサン」
「それが嫌なら少しはおとなしくしておきなさい」

はぁ、と燕尾服を着た男、時槻はふかーいため息を溢す。
赤司に昼食を奢ってもらい屋敷に帰ってきた瑠李への第一声がコレである。ヘラリと笑ってはいるが、瑠李の心中は穏やかではない。

「ごめんねー、時槻。久しぶりの日本だったからさー。恭弥は学校だっていうし……。それに父さんたちには連絡入れてたもーん」

あっけらかんと言ってしまう彼女、ついでに、連絡をくださらなかった旦那様にも文句を言いたい。そして、そんな彼らに結局は流されてしまう自分が憎い。
何度言っても、この少女はいつの間にか姿を消して町へと繰り出すのだ。いっそ惚れ惚れするほど鮮やかにいなくなる。身を守る者としては、迷惑極まりない。まあ、彼女自身、相応の護身術は習っているのだが。

「ま、説教はそれくらいにしようぜ、時槻」
「古屋……」
「お嬢はこーゆーところが魅力の一つなんだからさ」
「そういう問題じゃないだろう」

もはや家族ぐるみで振り回される苦労人、時槻である。


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