偶然 or 必然


ーーカランカランッ
今日は鳴るはずのない来客を告げる音に、羚は顔を上げた。


「いらっしゃいませ」


最早条件反射で声をかけた。
入ってきたのは男の人だった。身の丈程もある刀を肩に担ぎ、白に黒の斑模様が入ったモコモコの帽子をかぶっている。美形の部類に入る容姿だが、目の下の隈が人相を悪くさせている。
彼は一度店の中を見回した後、羚が立っているカウンターの席に座った。


「あの、今日は定休日なんです。そもそも、まだ営業時間じゃないんですよ」


困ったような苦笑を浮かべて、羚は言う。最も、彼のような人間には何を言っても無駄だと知っているのだが。


「……」
「…何にしましょう」


予想通り無言で返され、内心苦笑して羚は注文を促した。


「コーヒー」
「はい、少々お待ち下さい」


普段の色とは違う銀髪を結って、準備に入る。
ついでだから朝食も作ってしまおう。
そこまで考えて、カウンターに座っている彼はどうしようと動きが止まる。取り敢えず、お湯を沸かしてコーヒーを作ることにする。


「、あの、朝食は食べましたか?」
「いや……」
「良かった!じゃ、食べてって下さい。コーヒーだけじゃ体に悪いですし」
「……」


彼に断わる間も与えずに、早速朝食作りに入る。
彼の顔から不機嫌な様子は分かったが、止めろとも言われなかったのでそのまま続行する。
一人機嫌良く作り、朝食ができ彼と自分の前に並べ終えた頃、本日二度目の来客を告げる音が鳴った。


「邪魔するぜ」


そう声をかけて入ってきたのは、数人のいかにも海賊の格好をした汚い身形の男達だった。


「いらっしゃいませ。何のご用でしょう」
「俺達の服を欲」
「お帰り下さい。貴方が求めるものは作れません」


皆まで言わせずに、羚は申し出を一刀両断した。それに男の部下であろう男達が声をあらげる。
それを気にもとめず、彼女はカウンターの男に笑って言った。


「温かいうちにどうぞ」
「、あぁ」
「小娘が無視してんじゃねぇっ!!」
「うるさい、“黙れ”」


刹那、唾と野次を飛ばす男たちの声が無くなった。口を動かしても出てこない声に、男達は茫然と目を見開き口を開閉する。
その様は何とも滑稽だった。
冷ややかな視線でそれを見るのは、小娘と称された羚本人だけ。

豹変した彼女にその場の全員が瞠目した。
だいたい、今日は定休日だし、まだ営業時間じゃないんだ。

2013,04,01

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