始動


キィィーン

夜も更けた頃響いた音。それは侵入者の存在を知らせだった。洞窟から半経5m以内に人が入ると、知らせるように結界を張っていたのだ。羚はゆっくりと双眸を開き、紫紺の瞳を顕にした。
千桜を地面から引き抜くと、護身刀から大鎌へと姿を変える。廃屋から持って来た黒いローブを羽織り、フードで顔を隠す。

片手に身の丈以上もある千桜を持って歩く姿は、さながら、正に死神の如き様だ。
音もなく森の中を歩き、気配のする方へと向かう。

着いたのは、あの社だった。


「誰、ですか……」


男の人だった。
声をかけたのは、ただなんとなく。帽子をかぶりロングコートを着たその人は、背中に大きな十字架のようなものを背負っていた。


「この島は消されたはずだが……」
「それはどういう」
「貴様、何者だ」


意味だと続くはずの質問は遮られ、自分の最初の質問が返された。
会話のキャッチボールが成り立たない彼に、ため息を溢しそうになった私は悪くないと思う。


「………黒須羚、です」


素直に答えるのが癪で、間を置く。だがそれも彼の金色の瞳に見据えられて、意味を成さなかった。


「レイ、か……。良い名だ」


最後の言葉に羚は、かなり変な顔をしていたと思う。羚にとって、名前は両親の最初で最後の贈り物だった。


「レイ、俺と来ないか」


差し出された手に躊躇したのは一瞬。次の瞬間には首を縦に振っていた。
その選択は人生を変える究極の一手となる。


“ーー……お帰り、桜華姫”

お伽話の猫が浮かべた笑いに似た弧を描く月は、風と共に静かに始まりを告げた。海がいつもより嬉しそうに波をたてた。

2013,03,31

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