ヒトリ



夜。羚は島の探索を終え、洞窟の中に居た。力で作り出したたき火は、小さな音と共に爆ぜる。
ゆらゆらと、壁に羚の影を写している。


片膝を立てて座り、じっと何かを考えている。肘は膝に付いて顎を支えている。今は、紫紺の瞳も閉じられていた。

洞窟の中には、服や本等活用できそうな物が整理されて置かれていた。その中には、もちろん、羚がこちらへ来た時に持っていた物や、身に付けていた物もあった。

たき火の隣に、抜き身の刀が地面に突き刺さっている。羚が喚び出した千桜だ。

羚の双眸は未だ開かず、周囲には″WANTED″の文字と共に写真がプリントされた紙が散らばっている。

「ここはONE PIECEの世界、か…」

呟やかれた言葉は、散かに消えた。
彼女の世界にあった漫画の世界にトリップしたことになる。それはかなり非現実的な事だ。しかし、それに納得している自分もいた。
それは偏(ヒトエ)に、彼女が″普通″とはかけ離れた生活を送ってきたからだ。霊力、そして、あまつさえ妖力をも持って生まれた彼女は、この12年間まともな生活を過ごすことがなかった。

だが、一緒に居てくれたモノ達が居た。彼らは"同じ″ではなかったが、自分を支えてくれた。

一人だったけど、独りじゃなかった。

「(ヒトリは寂しい…)」

2013.3.11

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