「さて、アルエちゃん」
「なんですか…?」
――もう、シませんよ。
という声は届いてくれただろうか。
いや、届いてないに違いない。
レイヴンが次に発する言葉を訝しげな表情で待つと、レイヴンは此れまで以上に妖しい笑みを浮かべ、
「トリックオアトリート?」
と耳許で囁いた。
「お菓子…ユーリに貰ったものなら…」
と言い、菓子袋を差し出すが、レイヴンは首を横に振る。
「甘いもの好きじゃないの知ってるでしょ?」
嫌な予感がした。
「アルエちゃんを…食べようかしら?」
予感は的中し、身体が自然と逃げる体勢にはいる。
「ま、ま、待って下さい!い、今したじゃないですか…!」
「こんな可愛い猫耳メイドちゃんが目の前にいたら、一度で終われるわけないじゃない」
――鬼だ。
今しがた抱かれたばかりだというのに、もう一度抱かれろと言うのか。
それはあまりにも酷だ、と抗議しようとしたが、話を聞いてくれるはずもないだろうと、抗議は諦めた。
だが、身体がもう一度の情事に耐えられるはずがないことはアルエが一番知っている。
レイヴンの脇を通り過ぎて逃げようと試みたが、レイヴンに足を引っ掛けられてしまい、派手にその場に倒れ込んでしまった。
「い、たい…」
「お菓子なんかくれなくてもいいから悪戯させろ、ってね」
等と言いながら軽々とアルエを抱えると、アルエの悲鳴などお構い無しにトイレから出ていく。
行き先は言わなくてもわかるだろう。
「降ろしてくださいー!」
「はーい、メイドさんお持ち帰りー」
「レイヴンさーん!」
当然このやり取りを全員に見られ、後から冷やかしを喰らったことは言うまでもない。
――こんなハロウィンはもう嫌です!!
お菓子なんか要らないから悪戯させなさい