この10年間、幸せだと思った事はなかった。
いや、幸せだと思ってはいけないのだと自身に言い聞かせていたのかもしれない。
彼女と出会った時も、幸せだと思ってはいけないのだと。
ひたすら感情を押し殺していた。
そうすることで、逃げてきたのだ。
いつもと変わらぬ、アレクセイとユーリ達の間を行き来する日々を過ごしていたが、ある日、その輪廻から断ち切らされるような命が下った。
『嬢ちゃんを連れてこい、か』
アルエの所へは戻れないという事実が付きまとう。
――ごめん、アルエちゃん。
再び辛い思いをさせてしまう事に、レイヴンは項垂れてしまう。
自分が幸せになれない所か、他人の幸せまで奪う自分の存在に苛立ちを募らせる。
自分の事は良い。だが、アルエを苦しませるくらいなら…。
――アレクセイの命に従う必要などないのに。
抗う事さえ出来ず、レイヴン達はミョルゾへと向かった。
甘やかに満ちてゆく世界の中で、繋がれた指先に幸せは宿るのだろう