夢を見た。
あの人が目の前に現れて、此方が抵抗をする隙すらも与えられず斬り伏せられる。
あり得もしない、ただの夢なのに。
何故か心がざわつく。
…嫌な夢だった。
「シュヴァーン、さん…」
忘れなくてはいけないのに。記憶が忘れさせてくれない。
「…寝よう」
再び布団に潜り寝つこうとしても、先ほどのあまりの鮮明な悪夢のせいで眠ることが出来なかった。
「…悪い子」
今の自分にはレイヴンがいるのに、シュヴァーンの事が忘れられなくて。
どうしたら良いのだろうか。
「…ちゃん」
――?
誰かに呼ばれた気がした。
振り向いても、そこには誰もいないのに、何度も自分を呼ぶ声だけが響いている。
「アルエ」
その合間に彼の声が聞こえる。
――あ、れ…?
ふと、そこで思考する。
何処かで聞いたことがある。
当たり前の事なのだが、“そうではなく”、ずっと前に聞いたあの人の声と重なって聞こえる。
まるで、“一つの口から出てきている”ような。
そんな気さえして。
次第に訳が分からなくなり、考えるのを止めた。
気のせいだと自分に言い聞かせ。
何故、この時深く考えなかったのかと後悔することを自分はまだ知らなかった。
表向きでは彼を信じているようにしていたが、やはり何処かで疑いを持っていたことについて深く掘り下げていたほうがよかったのでは、と。
おかしな話だ。
愛される為に自分達は生まれてきた筈だというのに、愛する人を欺いたり、疑ったりするのは――。
『レイヴンさん…』
――貴方は、彼なのでしょうか?それとも、これはただの夢なのでしょうか?
愛される為に生まれた私等はきっと、愛する為に生きていく