「レイヴンさん…?」

気付けば姿を眩ましているレイヴン。
一体何処に行ってしまったのだろうかとアルエは首を傾げる。

「ユーリ」
「ん、どうした?」
「レイヴンさん知りませんか?」
「あー、おっさんか…気付いたら居なくなってんだよな」

ユーリに尋ねても、行方は知らないという。
一体何処へ行ってしまったのだろうか。


――そういえば…。


自分はレイヴンの事を何も知らないのだ。
レイヴンには自分の事を色々教えたというのに、逆にレイヴンの事は何一つとして教えてもらっていないのだ。
ただ、解ることといえば、ギルドに所属しているということだけ。

「レイヴンさんのこと、何もわからないんですよね…」
「あのおっさん、自分のことは語りたがらないからな。こっちのことは根掘り葉掘り聞いてくるくせにな」

ユーリもレイヴンの事をあまり知らないということは、自分について誰にも話していないということだ。
この時は、誰にでも知られたくない過去の一つや二つは持っているものだと、そんな事を考えていた。



「およ、アルエちゃんどうしたの、こんなところで」

ベンチに座りぼんやりとしていたところでレイヴンが姿を現した。
何処と無く、衣服が汚れている気がする。気のせいだろうか。

「あ、レイヴンさん。何処に行っていたのですか?」
「ちょーっと野暮用でねぇ。…もしかして、心配してくれてたとか?」

ニヤニヤとしながらアルエの顔を覗き込む。
その表情からは特に何かを予感させるようなものは窺えない。
感じ取られないようにしているだけなのかもしれないが。

「危ないことをしているわけでは…ないですよね?」
「…え?」


――まったく、この子は本当に核心を突いてくれるわ。


本当は何もかも知っているのではないかと疑ってしまいたくなるくらいだ。
いっそのこと、正体をばらしてしまった方がよいのではないかとつくづく思ってしまう。

「だーいじょうぶよー楽に生きるのがおっさんのモットーだし?危ない事なんかするわけがないっしょ?」

いつもの調子で欺けただろうか。
アルエの顔を窺うが、心配そうにはしているが疑っている様子はない。

「何かあったら…言ってくださいね」
「…ん、ありがと」

とは言ったものの、言えるわけがない。


――俺一人が背負えば良い。


アルエを巻き込む必要などないのだ。
恨まれる役は君ではない、災厄を被るのは俺だけで良いのだ。



(そうして、ずっと自分の行動を正当化し続けて、身を滅ぼしてしまえばいい…なんて事は彼女の前で言うことではないな)



世界中の人たちが君を憎んでいたとしても、すべての災厄が君に降り注いだとしても

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