あれから暫く時が経った。
レイヴンはユーリ達と共に行動するようになっていたが、時折姿を消しては気付かれないようにアレクセイへと定期報告を行っていた。

“シュヴァーン”に戻る度にレイヴンはアルエへの罪悪感を募らせていた。

「アルエ…」

この姿でアルエと顔を合わせたらどうなるだろうか。
アルエはこの俺へ心変わりをしてくるだろうか。
あり得もしない事を考えていたが、馬鹿げた事を考えるのはよそうと、苦笑を浮かべ、頭を振った。

「こんな姿で出てきても嬉しくはないだろうな」

幸せになるどころか、不幸になるのではないか。
彼女が幸せである為にも、この姿は見せるわけにはいかない。
彼女が幸せであること、それが俺の幸せでもある。
態々、自ら幸福を崩すような真似をするわけにはいかない。
定期報告を済ませたレイヴンは、元の羽織の袖に腕を通しながら考えていた。



「あ、レイヴンさんおかえりなさい」
「ただいま、アルエちゃん」

宿に帰る度にアルエが優しく出迎えてくれるのを見て、何だか新婚気分だなと、レイヴンは苦笑した。

「どうかしました?」

何故レイヴンが笑っているのか理解出来ずに、アルエは首を傾げた。

「んや、幸せだなーなんてね」
「何が、ですか?」
「こうして毎度毎度アルエちゃんに出迎えられるのが、ね」

などと良いながらアルエを抱き締めてやると、アルエが恥ずかしそうに身を捩ったが、すぐに抵抗を止めた。

「ね、アルエちゃん」
「はい?」


――アルエちゃんは今、幸せ?


だなんて、とてもではないが、訊ねられなかった。
彼女の幸せが俺の幸せだなんてのは、単なるエゴなのではないかと。
そうではなく、彼女が幸せだと思い込むのが俺の幸せなのではないかと考えてしまったからか。

だから、訊ねられなかったのだろうか。


「…レイヴンさん?」
「…んぇ?ああ、どうしたの?」
「や、レイヴンさんが私を呼んだんじゃないですか。なのに急に黙ってしまって…」
「あ、ああ…そう、だったわね…?」
「変なレイヴンさん」

クスクスと笑い出すアルエ。
その笑顔に陰りは見えない。
心底楽しんでいる風だった。
それを見て、少し安心をする。


――彼女が幸せでありますよう。


…誰の為に?

そう、それは俺の為に。

俺が幸せである為に。



そうして、自分を保身しているうちに彼女を悲しませているのは他ならぬ自分だというのに。



俺が幸せである為に、俺の大切な人が幸せでありますように

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