第15話「恋心は強火で炒めましょう」のスキ魔



「「本当にすみませんでした」」
「あ、頭を上げてください…!」

ダリとイフリートの暴走で一時はどうなることかと思ったが、ロビンの一言のおかげで、何とか無事に調理を終えたナマエ。 全員分の配膳が終わりホッとひと息ついたところで、ダリとイフリートが突然目の前で頭を下げてきて。 ナマエは慌てて顔を上げるよう、声をかけた。

「つい、ダリ先生に対抗心を燃やしてしまって… 申し訳ございませんでした」
「僕の方こそ、大人げなかったですね… 本当にすみませんでした…」

そう言ってお互いに謝罪し合うふたり。 そんな彼らを見ていると、ナマエの中の罪悪感もむくむくと膨れ上がっていく。

イフリートが料理に興味を示してくれたことが嬉しくて、説明に夢中になっていたナマエ。 手を握られたことにも気づかないなんて… と、肩を落とす。 ついこの間、ダリに注意されたばかりだと言うのに。 ナマエは自分の危機感の無さが情けなくて仕方がなかった。

「ダリ先生…!」
「? どうかしましたか? ナマエさん?」

2度も同じ過ちを繰り返しておきながら、立派に謝罪だけはする。 そんな馬鹿な自分に嫌気が差すけれど… とにかく今は正直に謝らなくてはと、ナマエはダリを呼び止める。

「私、また… ダリ先生のことを傷つけてしまいました… 本当に、ごめんなさい…」
「いやいや、今回は仕方ないですよ。 僕がナマエさんの料理を食べたいって、無理を言ったんですから…」
「でも…」

ダリの言葉は、一理ある。 そもそも今回の件は、イフリートが仕掛けてきたものだ。 試食会でのイルマとの一件とは違い、ナマエはただ真剣に料理を作っていただけにすぎない。 それをどうこう責める権利は、ダリにはなかった。 それ故に、イフリートに対して怒りが膨れ上がってしまったのだが。

しかしそんなダリの主張を、ナマエは受け入れられない様子。 自分の非を素直に認め、真摯に謝罪するのは誰にでも出来ることじゃない。 ナマエのそういった素直さは美徳であるが、その一方。 今回のような危うさの原因でもあった。

そんなナマエの態度に、ダリは内心、複雑な心境だった。 これからもこういうことが何度も起きるんだろうな… そう思わずにはいられない。 しかし…

「( ナマエさんの、そういうところ素直なところが、好きで好きで堪らないんだよなぁ… )」
「? …ダリ、先生?」

不安そうに見上げてくる、ナマエの大きな瞳。 この瞳に見つめられてしまえば、今までの怒りなどどうでも良い気がしてくるから、困ったものだ。 危うさが、何だというのか。 "恋人がモテる" なんて、誇らしいことじゃないか。 他の男に目移りしないよう、自分が努力すればそれでいい。 そんな考えに至る、ダリ。 まさに、これが "惚れた弱み" というものである。

「お詫びと言ってはなんですが… 何か私に出来ることはないですか…?」
「うーん、それじゃあ…」

申し訳なさそうに、ナマエがダリに問い掛ける。 その姿はさながら小動物のようで、きゅんと高鳴るダリの胸。 ナマエからの "お詫び" という言葉、それはすなわち、ダリにとっての "ご褒美" 。 今この時点で、彼の怒りは完全に頭の中から消え去っているのだから、ダリもつくづく現金な男である。

「今度は僕と… 料理をしてくれますか?」
「えっ?」

ダリからのお願いは、ナマエの予想を良い意味で裏切った。 彼のことだから、冗談混じりで恥ずかしいお願いをしてくるのではないか。 そう、予想していたのだが… まさかの真面目なお願いにナマエは少し面食らう。

「ナマエさんと仲良く並んで料理をしているイフリート先生を見たら、羨ましくてしょうがなくて…」
「ダリ先生…」
「僕にも、料理を教えてください」

『ダメですか?』 そう言って、首をかしげるダリの姿に、ナマエの胸はきゅうっと苦しいくらいに締め付けられる。 大の男がこのような仕草をして、側から見れば情けなくもないのだが… ナマエの目に映る彼は、それはそれは可愛らしく、愛おしく。 ナマエも大概、ダリにぞっこん、メロメロなのである。

「っ、ダメなわけないです…! むしろ… すっごく、すっごく嬉しいです!」

大好きな彼と、一緒に料理。 それはナマエにとって特別以外のなにものでもない。 これではお詫びにならないのではないか。 そんなことを思うナマエだったが…

「僕も。 ナマエさんと一緒なら、何だって嬉しいです」
「っ−−−ッ!!!」

とんでもなく甘い声と優しい笑顔で、そう囁くダリの姿に、一瞬にして持っていかれてしまうのであった。




「ちなみにポトフは無事でした…!」
「「「「「すんげぇうまい……ッ!!!!」」」」」
「またイフリート先生の炎で作ってくださいね! ナマエさん!」
「こらこら! ロビン先生! 余計な事、言わないの!」
「僕はいつでも大歓迎ですよ」
「あはは…」

今日も今日とて。 食堂は大賑わいなのであった。



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