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拍手お礼夢
お相手:イフリート・ジン・エイト
「エイト先生、好きです…っ」
「………へ?」
放課後、ふたりきりの教室で。
突然、好きだと伝えてくる、目の前の彼女。
予想外すぎる展開に、間抜けな声を出すことしかできない自分が酷く情けないが、それも無理のないことだと心の中で言い訳をする。
僕は教師でありながら。 目の前で恥ずかしそうに頬を染める生徒のことを、可愛いなと。 以前からそう、思っていたのである。
「私と、付き合ってくれませんか…?」
「っ、あー… えっと、気持ちは嬉しいんだけどさ、」
ほんのりと、赤らむ彼女の頬。 緊張からか瞳は潤み、声は小さく震えている。
そんな愛らしい姿を見せられて。 動揺しない男がこの世に存在するのだろうかと。 どうやっても浮かれてしまうこの気持ちに、どうにかこうにか理由をつける。
「僕は教師で、君は生徒… だからお付き合いは、その… 出来ないん、だよね」
「…そう、ですよね」
本音を言えば、もちろん。 このまま彼女を強く抱き寄せて、耳元で愛の言葉を囁いてやりたい。 だけど、そんなこと。 到底無理な話であって。
これは、お互いのため。 そう自分に言い聞かせながら、僕は "教師" としての模範解答を彼女に告げる。
そんな僕の答えを、大方予想していたのだろう。 悲しそうに眉を下げながらも、どこか納得したような表情を浮かべる彼女の姿に、ズキっと。 胸が締め付けられる。
「突然すみませんでした… ダメだって分かってても、どうしても気持ちを伝えたくて…」
「っ、…」
「エイト先生の、タバコを持つ大きな手とか、すれ違った時にふわって香る少し苦い香りとか、サラサラの綺麗な黒髪とか、全部全部、すごく、好きで…」
「っ、ッ〜〜!! あー…っ! もう、ストップストップ…っ! それ以上はダメ! 言わないで…っ」
「……っ、」
彼女から告げられる怒涛の殺し文句に、僕の胸は熱くなる一方で。 まさか、こんなにも。 僕のことを見てくれていたなんてと。 嬉しいやら恥ずかしいやら愛おしいやら、さまざまな感情が湧き上がってくる。
だからこそ、これ以上は本当にダメだと。 頭の中で、警鐘が鳴る。
無理やり押さえつけたこの感情が、飛び出してしまう前に。 話を終わらせなければと、僕は彼女の言葉を遮った。
「や、やっぱり迷惑ですよね…っ、ごめんなさい」
「っ、あぁ、いや! そういうわけじゃなくてね!?」
必死になる僕を見て、嫌がっていると勘違いしたのか。 途端にしゅんと縮こまる彼女。 そんな姿に痛む、胸。
悲しんでほしくない。 そんな気持ちが胸をいっぱいにして、思わず声を荒げてしまう僕に、彼女はまた。
とんでもなく切ない声で、甘い甘い言葉を告げる。
「っ、叶わないって、分かってるけど… このまま先生のこと、好きでいても、いいですか…?」
「っ、ッ〜〜… あぁ、もう…っ!!!」
「ッ、ぁ…っ」
一途に想い続けてもいいかと問うてくる、その健気さ。 遠慮がちに見上げてくる、大きな瞳。 まるで今にも泣き出しそうな、切ないその表情は、僕の心をこれでもかと惑わせる。
"そんなに僕のことが好きなのか" と。 そう思わずにはいられなくて。
半ば無理やりに、彼女の腕を掴み引き寄せる。 細い腰を抱き、胸の中に。 ギュッと彼女を閉じ込めた。
「エイト、せんせ…?」
「……とんだ小悪魔だね、君」
「えっ、あっ、あの…っ、何が何だか、さっぱ、り…っ、ッ!?」
状況を上手く理解出来ないのか、困惑する彼女。 それでも嬉しそうに見えるのは自意識過剰だろうかと。 そんなことを考えるけれど。
すぐ目の前に、彼女がいる。 そんな状況を心底嬉しく思うのは、僕も全く同じで。
慌てふためく小さな赤い唇に、そっと。 自分の唇を重ねてやる。 ふにっと柔らかい感触に、僕の胸はどくんと大きく音を立てた。
「っ、いっ、いい、いまっ、キス…っ」
「( あー… どうしよう、やばい。 めちゃくちゃ、可愛い )」
真っ赤になって慌てる彼女が、どうしようもなく可愛くて愛おしくて堪らなくて。 一気に溢れ出す、恋慕の情。
しかしそれと同時。 新たな問題が。
「( ……これは反省文だけじゃ、済まないよなぁ )」
「エイト先生… あの、」
「ん…?」
つい、現実的なことを考えてしまう僕だったが、彼女の声に思考を戻される。 何か言いたげな表情でこちらを見上げてくる彼女に、優しく微笑みかければ、返ってきたのは…
「もう一回… キスしてほしいって言ったら… ダメ、でしょうか?」
「っ、ッ〜〜!!!」
とんでもなく可愛い、おねだりで。 これには僕も、完全にノックアウト。 一発KO負けである。
これから先、数々の困難が待ち受けているだろうが、そんなもの。 関係ない。 何があっても絶対に。 目の前の愛しい存在を守ると、僕は心に誓うのだった。
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