- ナノ -
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託した手紙は、彼の手元に舞い戻った。すまない、と竜が頭を下げた。探したが、その人間はもう、あの街にはいないようだった。
そうか。手間をかけたね、ありがとう。彼は頷いて微笑んだが、その顔には哀が滲んでいる。
行方も知らさずいなくなった。それは何を意味しているのだろう。窓から差し込む夕刻の赤い光が部屋を染める。竜は彼に掛けるべき言葉を持たなかった。
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