- ナノ -


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 私がほんの小さい子どもだった頃の話だよ。夕方、道に迷って家に帰れなくなったことがあってね。泣き疲れて、蛙の鳴き声が響く畦道でついうとうとしてしまったのさ。そしたら急に体が軽くなった感じがしてね。ふと気がつくと家の前に立っていた。あれはお山に住む竜神さまが助けてくれたんだよ。
 ばあばをだっこして、おうちまでとんでくれたのかなあ、と幼子が言った。そうさな。目を細めて老女は頷いた。


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