- ナノ -


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 人の言葉がなんとなくわかるようになっても、人に言葉を伝えることはできない。仔竜はもどかしい気持ちでいっぱいだった。周りの人たちに、いつも一緒にいてくれるその人に、ひとつの言葉を伝えられるだけでもよかった──ありがとう、と。届かないとわかっていても、竜の言葉で繰り返す。微笑みを見たとき、伝わったかもしれない──そう思うのは、仔竜の希望にすぎないのだろうか。


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