- ナノ -


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 浮かない顔をしているな、と竜が隣の人間に声をかける。あんまり調子が出なくてね。人間は苦笑いした。それなら、と竜は思い切り息を吸い込む。そして吠えた。驚きの表情を浮かべる人間に、竜は笑って言った。力いっぱい叫ぶと、少しは気が晴れる。
 僕もやってみようかな、と人間。でも君の渾身の叫びを聞いたら、なんだかもう、かなりすっきりしちゃったよ。勢いのある風が雲を払ったように、彼の顔には光が差し込んでいた。


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