- ナノ -
20
遠く連なる山々に、太陽が落ちる。夜の帳が空を覆う、その直前、世界には黄金のひかりが溢れる。竜はこの時間が好きだった。
竜は自分の生まれたときのことを、覚えていない。家族のことも。思い出すには、あまりにも遠すぎる歳月を送ってきた。けれども、夕暮れのひかりに感じる、そのあたたかさ。それはどこか、非常な懐かしさをもって、竜の心をやさしくゆり動かすのであった。
[
←
○
→
]