帝と出逢った後も、しばし変わらぬ日々が続いた。
しかし、八月の満月が近付くにつれ、なまえは目に見えて元気をなくしていった。
心配した家光が何か悩み事があるのかと尋ねると、なまえは驚くべき内容を語った。

「お父さん……私は本当はこの世界の人間じゃないの。もう一つの世界からこの世界に実験的に転送された人間なの…」

「な、なんだって!?」

なまえの話によると、データを回収するためにもうすぐその世界に戻らなければならないのだという。
次の満月の夜にお役目の者が彼女を迎えに来るらしい。

「でも、私帰りたくない……ずっと育ててくれたお父さんやお母さん、ツナやみんなとずっと一緒にいたい……」

「大丈夫だ、なまえ。お父さんに任せろ!」

ぽろぽろと涙を流して悲しむ娘に向かって、家光は力強く請け合った。


 * * *


そして、約束の満月の日。

沢田家には事情を聞いたザンザス、雲雀、骸、白蘭、そして綱吉とその仲間達が集結していた。
およそこの世界で考えられる最強のメンバーである。

「心配いらねーぞ。いざとなったら俺も出る」

「リボーン……うん、有難う」

なまえの傍らには家庭教師のリボーンが控えて彼女を守っていた。

「見ろ!何か来るぞ!」

笹川了平が夜空に浮かぶ月を指差す。

明るく輝く月から、確かに何か黒いものがやって来るのが見えた。
赤い巨大なそれは、どうやら乗り物であるらしい。
そして、その屋根部分に一人の男が黒衣の裾を夜風になびかせて佇んでいた。

「何者だ!」

家光が警戒を滲ませた声で問いかける。

「私は運び屋の赤屍蔵人と申します。こちらのセカイでなまえ姫と呼ばれているお嬢さんを迎えに来ました」

「断る。娘は渡さん」

男は黒い帽子の下で淡く笑んだ。

「それは困りましたねぇ。私も仕事ですので」

不意に銀色に輝くものが赤屍に向かって襲いかかった。

「トンファー、ですか…なるほど、こちらのセカイの猛者を集めて防衛を試みたわけですね。面白い」

凄まじい勢いで振るわれたそれを、赤屍は涼しい顔をして片腕で止めていた。
ギシギシと軋むトンファーを握ったまま雲雀が不敵に笑う。

「ワオ、余裕だね」

「貴方こそ。本気で攻撃したとは思えません」

赤屍の手の平にぐぷりと血液が吹き出した。
そこから現れた赤い剣が、夜の空気を切り裂いて雲雀に切りかかる。

雲雀が飛び退くと同時に、他の者達も一斉に攻撃を開始した。



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