午後の任務を終えて高専に戻る頃にはすっかり日が暮れていた。
こんな時、車で送迎して貰えるのが有り難いとしみじみ思う。呪霊と戦って疲れきった身体で電車を乗り継いで更に山道を登って帰ってくるのは正直キツい。
学生に対しても容赦なく任務を割りふってくる高専だが、補助監督による送り迎えだけは配慮が行き届いていると感じられる。

「今日いい感じだったよね」

「ああ、しっかり連携がとれていた」

「確実に強くなってるのが実感出来たわ」

「だな」

車から降りて寮に向かおうとした時、少し先に五条の姿を見つけたなまえは真っ直ぐ彼に向かって駆け出した。五条も両腕を大きく広げて待ち受ける。

「五条先生、お帰りなさい!」

「ただいま。なまえもおかえり」

胸に飛び込んできたなまえをしっかりと抱き留めた五条は、腕の中に収まった小さな身体を包み込むように抱き締めた。そうしてその頭を優しく撫でてやれば、腕の中の少女はくすぐったそうに笑った。

「お土産買って来たから後で皆で食べな」

「ありがとうございます」

少女の細い腰に手を当てて持ち上げ、キスでも出来そうな至近距離まで顔を近付けてそんな会話を交わす。なまえの同期達ももはや慣れたもので、特に突っ込むこともなく二人を見守っている。
心穏やかでないのは一人だけだった。

「夏油先生もお帰りなさい。出張お疲れさまでした」

「ああ、ただいま。ありがとう」

五条の腕の中から抜け出て目の前まできたなまえに、夏油は眩しいものでも見るように目を細めて微笑んだ。そうして、にこにこと見上げてくる少女を愛おしむように優しく頭を撫でる。

「だいぶ上手く連携がとれるようになってきたみたいだね」

「そうなんです。だから嬉しくて」

「あれだけ頑張っていたのだから成果も出るだろう。私も体術を指南した身として嬉しいよ。とはいえ、気を抜かないように」

「はい、これからも頑張ります!」

よしよし、いい子いい子、と頭を撫でてやれば、なまえは嬉しそうに、だけど少しだけ恥ずかしそうに頬を染めた。

「夏油先生の手、大きくて優しくて、私好きです」

「え」

完全な不意討ちだった。しかし、夏油が反応するよりも早くぱっと身を翻したなまえは離れて待つ友人達のもとへと駆けていってしまっていた。

「ちゃんとご飯食べて下さいね!」

仲間と合流したなまえがそう言って夏油に手を振る。夏油は緩みそうになる顔を必死に耐えて、ひとつ頷いてみせた。
安心したのか、なまえは友人達と共に寮に戻るべく歩いて行った。

「よく我慢したねぇ」

「なんのことかな」

「またまた〜涼しい顔してよく言うよ。めちゃくちゃ嫉妬してたくせにさ」

「君は生徒と距離が近すぎる。もっと適切な距離を保つべきだ」

「知ってるだろ。僕が正論嫌いなの」

オッエーと吐く真似をする親友に、夏油はやれやれとため息をついた。良い意味でも悪い意味でも五条は変わらない。

「あまり余裕ぶってると先に僕が食べちゃうよ」

「……少し話をしようか、悟」


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