五条先生が怖い。 初めて逢った時から先生のことが怖くて堪らなかった。 軽薄な感じに見えるほど陽気に振る舞っているけど実際には何を考えているのかよくわからなくて怖いし、十三歳も年下の小娘でしかない私なんかをどうして婚約者に選んだのかもわからなくて怖い。 もう五条先生がそこにいるだけで身体が勝手に震えだす始末だ。 「今日の任務はここの呪霊を全て祓いきることでーす。皆頑張って行っておいで」 付き添いで来ていた五条先生がパンパンと手を叩きながら言った。 帳が下りているせいで辺りは真夜中のように暗い。 今日の任務地である廃墟となった遊園地の跡地は、かつては家族連れやカップルで賑わっていただろうけど、今は寂れて静寂に包まれている。何だか寂しい。 「よっし、行くか!」 「釘崎、後ろ頼む」 「仕方ないわね。任せなさい」 それぞれ返事をして遊園地の敷地内に入って行く皆に続こうとしたら、五条先生に腕を引かれてバックハグされてしまった。いきなりのことに身体がぴゃっと跳ね上がったが五条先生は気にした様子もない。私にすりすりと頬擦りしている。 「なまえは僕とお留守番。何かあった時のための待機要員だよ」 「わ、わかりました」 「なまえ!そのロクデナシに何かされたら遠慮なくぶん殴りなさいよ!」 ビシッと五条先生を指差してから野薔薇ちゃんは遊園地の敷地内に入って行った。 いきなりバックハグされて頬擦りされたのは何かされたことにはならないのかな。 五条先生の他人との距離感が近すぎるせいで感覚が麻痺してしまったのか、『普通』がどんなものかわからなくなっているようだ。 「じゃ、僕達はここで悠仁達を待ってようか」 近くにあった瓦礫に腰を降ろした五条先生が私を自分の膝の上に抱き上げる。途端に震え出した身体に、五条先生が「寒い?」と尋ねてきた。 「こうしていれば寒くないよね」 五条先生の膝の上で、後ろから先生の大きな身体に包み込むようにハグされているため、先生の体温に包み込まれていてあたたかく、少しも寒さは感じなかった。この震えは恐怖からくる震えなのだ。 「まだ僕のことが怖い?」 「えっと……」 「正直だね。心臓がドキドキしてる」 ククッと五条先生が喉で笑う。 どう反応したらいいかわからずに困っていると、五条先生がぽつりと呟いた。 「抱きたい」 「え」 聞き間違いかな?聞き間違いだよね? でないと怖すぎる。 ぶるぶる震える身体をぎゅっと抱き締められる。 「いっそどこかに閉じ込めてしまおうか」 背筋がぞくっとするほど激情を秘めた冷たい声だった。 「誰にも見せないように僕しか知らない場所に閉じ込めて、その小さな身体に僕の存在を教え込みたい。子宮がいっぱいになるくらい何度も何度も精子を注ぎ込んで僕の子を孕ませたい」 「ひ、ひえっ……!」 「なんてね。それくらい好きってこと」 小さく笑った五条先生が私の頬に唇を寄せる。ちゅ、と頬にキスをされた。 とろとろに溶けたチョコレートみたいな甘い声が私に囁く。 「ねえ、まだ僕のことが怖い?」 めちゃくちゃ怖いです。 |