季節の移り変わりによる体調不良で寝込んでいたら、傑くんが部屋までお見舞いに来てくれた。
今日も悟くんとバディを組んで任務に出かけていたはずだが、早々に片付けて来たらしい。随分早く帰って来たんだなと思いながら起き上がろうとしたら、すぐさま背中に腕を入れられて優しく抱き起こしてくれた。

「無理をしなくていいから。辛かったら横になったままでいいんだよ」

「大丈夫。お帰りなさい、傑くん」

「ただいま、なまえ」

傑くんの大きな身体にそっと腕を回して抱きつくと、同じくらいの強さで抱き締められる。

「ゼリーと桃の缶詰を買って来たよ。少しでもお腹に入れたほうがいい。食べられそうかい?」

「うん……たぶん、少しだけなら」

朝と昼の食事を食べられなかったことを知ってわざわざ買って来てくれたのだろう。
ベッドの脇に置かれたビニール袋の中に果物などが入っているのが見えた。傑くんがせっかく買って来てくれたのだから出来る限り食べたい。

「少し待ってて」

私の背中側にクッションと枕を詰めてそこにもたれかからせると、傑くんは桃の缶詰を手早く缶切りで開け、フォークで果肉を半分の大きさに切ってから私の口まで運んでくれた。
随分ゆっくりとになってしまったが、それを食べて咀嚼し、こくんと飲み込めば、傑くんはあからさまに安堵の表情を浮かべて私の頭を優しく撫でた。

「ちゃんと食べられて偉いね。もう少し食べられる?」

「うん」

傑くんが甲斐甲斐しく食べさせてくれたお陰か、桃の缶詰を全部食べきることが出来た。

「ごちそうさまでした」

「どういたしまして。ゼリーは冷蔵庫に入れておこうか」

「うん、ありがとう」

ゼリーをしまうために傑くんが身体を離す。急になくなったぬくもりが何だか寂しくて、それが顔に出てしまっていたらしい。すぐに戻って来た傑くんがベッドの端に腰掛けて私を抱き締めてくれる。

「甘えたい?いいよ、何でも言って」

傑くんはいつも優しいが、今まで聞いた中で一番優しい声だった。

「じゃあ、少しの間でいいから、ぎゅってしてて」

「わかった。君が眠るまでこうしているから、安心しておやすみ」

私を抱き締めたまま傑くんがおでこにキスをしてくれる。それだけじゃ物足りなくて、くいと傑くんの袖を引くと、優しいキスが唇に落とされた。愛おしくて堪らないといった風に。

「愛してる」

傑くんが甘く優しい声で囁いた。

「元気になったら、デートしよう。映画でも水族館でも、君の好きなところに連れて行ってあげるから、早くよくなって私を安心させてくれ」

エアコンの低く唸るような稼働音が静かな部屋に微かに響いている。それでなくても傑くんの抱擁が心地よくて眠気を誘われているのに、それもあいまって余計に眠くなる。
私がうとうとし始めたのがわかったのか、傑くんが優しい手つきで背中を撫でてきた。

体調不良は困るけど、こんな甘い時間が過ごせるなら、と思ってしまうほどに幸せなひとときだった。


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