今年は残暑が厳しくて、九月になってもまだ蒸し暑い日が続いていた。
ただ、交流会では皆それぞれ大きく成長することが出来て全員無事に終わったし、虎杖くんの居る日常が戻ってきたことは素直に喜ばしい変化だった。

「先生ー!釘崎ー!苗字ー!」

本日の任務を終えた私達は、付き添いの五条先生と一緒に木陰で迎えの車を待っていたのだが、そこへ虎杖くんが私達を呼びながら走って来た。この展開は前にも見たことがある。

「伏黒が逆ナンされてるー!!!」

「またぁ?どうせまた道教えてたって落ちでしょ」

五条先生は見るからにやる気がない。だらーっと長身を伸ばして街路樹の下の囲いの縁に凭れかかったままひらひらと片手を振ってみせた。
こんな風にだらけているけど、最強なんだよね五条先生。この前その常識外れな暴力的なまでの能力を目の当たりにしたばかりだ。

気が乗らない様子の五条先生と野薔薇ちゃんに虎杖くんがいい募る。

「今度こそマジだって!『キミ高校生?そこのカフェでコーヒーおごってあげる』て美人の大学生の姉ちゃんに絡まれてる!」

五条先生と野薔薇ちゃんの反応は素早かった。
瞬く間に駆け出していた二人を虎杖くんと追いかける。

「フォーメーションB」

「承知!」

私の感想としては、またかぁ、なのだが、それにしてもこの三人ノリノリである。
前方に伏黒くんが見えた。確かに大学生くらいの綺麗な女の人と何か話している。

「伏黒きゅ〜ん!」

野薔薇ちゃんと虎杖くんがしなを作りながら伏黒くんに縋りつく。それを見て女の人は明らかに引いていた。ですよね。

「何よその女ー!私の瞳に乾杯した夜を忘れたの!?」

「俺といる時が一番楽しいって言ったあれは嘘だったの!?」

「伏黒くん……」

私も瞳をうるうるさせて伏黒くんに訴えかける。

「ひどい。私とのことは遊びだったの?」

「ち、違う!これは……!」

伏黒くんがうろたえた声をあげた。
ここで五条先生がオネエのバイオリンの先生に扮して登場するはずだったのだが、現れた先生は伏黒くんと私を見比べると、何故かおもむろに私をひょいと担ぎ上げた。

「やっぱダメだ。演技でもなまえは渡せないや。悪いね、恵」

「せ、先生、なに」

「黙って」

「んっ」

「あの野郎キスしやがった!公然猥褻よ!捕まえろ!」

野薔薇ちゃんが五条先生を指差して叫ぶ。
五条先生は余裕たっぷりに笑うと、私を担ぎ上げたまま猛スピードで走り出した。
は、速い!振り落とされないのが不思議なほどの速さだ。

「くっそ、速えぇ!」

「さすが五条先生!」

「感心してないで追いかけなさいよ!」

三人の姿があっという間に見えなくなる。

「このままラブホ行っちゃう?」

私にちゅっちゅしながら五条先生が甘ったるい声で言った。
おまわりさん、この人です。


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