カチコチと古い壁掛け時計の針の音が聞こえるほど静かな休憩室で一人寂しく遅めの晩ご飯を食べていると、ドアが開いてコーヒーを手にした七海さんが入って来た。

「今、夕食ですか?」

「はい。今日は忙しくて」

今日は五条さんの担当だったのだが、デートだなんだとあちこち連れ回されてこんな時間になってしまった。本当は夕食をご馳走するよと誘われたのだけど、丁度いいタイミングで伊地知さんから連絡が入ったお陰で何とか誤魔化してここまで逃げて来たのだった。

「それは大変でしたね」

心底同情したように七海さんが労ってくれる。優しい人だなあ。

「ところで、それはカスクートではありませんか?」

「あ、はい」

「私も良く食べます。社畜時代は行きつけのパン屋があったほどでして」

ハムとチーズとトマトとレタスがサンドされたカスクートを食べていたら、七海さんが言った。

「そうなんですね。一口食べます?」

「いえ、それは申し訳ないので」

「ちょっと七海。なに僕のなまえに粉かけてんの」

いつの間に室内に入って来ていたのか、五条さんが私の背後から腕を回してくる。

「さっきは上手く逃げたね。まあ、すぐ見つけちゃったけど」

五条さんが喉で笑う。
肩と背にかかるずしりとした重みはそのまま五条さんの独占欲の強さを表しているようで、戸惑わずにはいられない。五条さんは私のどこが気に入ってこんなにも執着してくるのだろう。

「僕の部屋においで。朝までたっぷり時間をかけて可愛がってあげる」

甘くセクシーな美声で低く耳打ちされて思わず「ひんっ」となってしまった。なんなら漏らしかけた。五条さんから醸し出される暴力的なまでの魅力は私のような人間にはただただ毒だ。

「セクハラですよ、五条さん」

ぷるぷる震えていたら、こちらもまた腰に響くイイ声で七海さんが注意してくれた。

「さあ、なまえさん。部屋まで送りましょう」

「は?お前、僕のなまえを横取りするつもりかよ。なまえ、行っちゃダメだよ。わかってるよね?」

「なまえさん、そんな人に従う必要はありません。しつこい男は嫌われますよ、五条さん」

「なまえは僕のだって言ってるだろ。ね?なまえ」

「違いますよね、なまえさん」

何がどうしてこんな状況になっているのかよくわからないけど、二人とももうやめて。イケメンボイスの無駄遣いはよくないと思います!鼻血が出そうだから!


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