一人の独身女性が、多数の男性との数々のイベントを通して運命の相手を探す『バチェロレッテ・呪術』。呪術界では有名な婚活番組だ。 そのシーズン2に私は参加していた。 お相手となる男性達は、呪術師をはじめとして補助監督や窓など、全員が呪術界に身を置く人ばかりだ。 非術師の番組と違うのは、私が成功者でもお金持ちの令嬢でもなく、どこにでもいる補助監督の一人という点だった。 番組サイドとしては、貧しいけれども健気に頑張っている女性が運命の人と巡り会うシンデレラストーリーに仕立て上げたいらしい。 「残念です。あなたに選ばれるのは私でありたかった」 「七海さん……」 三人にまで絞られていた候補者の中から断腸の思いで脱落者を選んだ私は、演技でもなんでもなく本当に涙ぐんでいた。 本当は!本当は!七海さんと結婚したかったんです!と思わず本音を口にしてしまいそうになるのをぐっとこらえる。大人オブ大人で紳士的な七海さんはまさに理想の結婚相手だったのに。 「ま、当然の結果だよね」 「やはり君との一騎討ちか、悟」 残ったのは、五条さんと夏油さん。二人とも特級呪術師であり、この世界では知らない者のいない有名人だ。 最後にこの二人が残ったのは実は私の意志ではない。そのほうが番組的に美味しい展開になるし視聴率も稼げるからと言われて強制的に決められてしまった結果だった。 私としてはハイスペック過ぎてあまりにも世界が違う感じがして気後れしてしまうのだけど。それに、二人とも何だか怖い。どちらと結婚しても物凄く重いものをぶつけられそうでハラハラしてしまう。それだけ愛されるなんて幸せだと思うかもしれないけど、やっぱり怖いものは怖い。 今日はディレクターの指示で二人に料理を振る舞うことになっていた。しかし、実を言うと料理はあまり得意ではない。やはりというか、出来上がった品は不味くはないが美味くもないという何とも微妙な出来だった。それでも二人はぱくぱく食べてくれている。 「ごめんなさい……料理は苦手で……」 「大丈夫、問題ないよ。僕が今度手取り足取り教えてあげる。二人でイチャイチャしながら料理するのも楽しくていいよね」 「君が作ったものなら泥団子でも美味しく食べてみせるよ」 「ふえぇ……!」 「傑、お前覚悟ガン決まりすぎ。なまえが引いてるじゃん」 「悟こそ、以前言っていたことと随分違うじゃないか。『料理が出来ない女なんて女じゃねえ』って言っていたのは誰だったかな?」 「なまえは特別。他の女と比べるなよ。僕のなまえへの愛情は海より深く宇宙より広大だからね」 「私にとってなまえは世界のすべてなんだ。もはや比べるとか以前の問題だ。君とは覚悟の決まり方が違うのさ」 「は、僕となまえに対する愛情の強さで張り合おうって?やめとけよ。全呪術界に恥をさらすことになるぜ」 これはもしかしなくても私が止めないといけないんだろうな。スタッフはもっと派手にやりあってくれと言わんばかりだけど、このままでは被害が出そうだ。 「あの、良かったらデザートもあるのでどうぞ。お菓子作りは結構自信があるので料理よりは美味しいと思います」 「わ、本当だ、めちゃくちゃ美味しい!はあ……料理苦手なのにスイーツ作りは得意とか、これってやっぱり甘い物好きな僕へのアピールだよね?愛してるよ、なまえ」 「いや、この控えめな甘さと珈琲味、私の好みに合わせてくれたんだよね。ありがとう。愛しているよ、なまえ」 「はあ?何言ってんのお前。なまえは僕のお嫁さんになるんだけど?」 「それはこちらの台詞だ。なまえは私と結婚して幸せな家庭を築くんだよ」 素早く立ち上がった二人は即座に戦闘体勢に入った。膨れ上がった呪力がオーラのように二人を取り巻いているのが見える。 「術式反転──“赫”」 「特級仮想怨霊『化身玉藻前』」 ……ケテ…タスケテ…… |