ときめきじゅじゅリアルというゲームがある。 ネットに詳しい補助監督さんが作ったゲームで、素人の私でもそれとわかるくらい作り込まれていて、フリーゲームとして配信していてもおかしくない出来なのだが、重大な問題がひとつあった。攻略対象含む登場人物がすべて実在する高専関係者ばかりなのだ。さすがにこれは配信出来ない。 日頃仲良くしてくれているからと特別にプレイさせてもらっているのだけど、つくづくもったいないと思う。 ちなみに乙女ゲーム初心者の私は、最初からフレンドリーに接してくれた悠仁くんを攻略しているところだった。だって、他の皆は最初は素っ気なかったんだもん。伏黒くんなんてツン全開でビビり散らしてしまったくらいだ。 ゲーム内の時間は高専に入学してから三年目の夏。 各パラメーターも順調に上がってきていて、それに伴って悠仁くん以外のキャラの好感度も上がってきている。いわゆるパラ萌えという現象だ。今なら伏黒くんも優しく対応してくれるが、私は一途プレイを目指しているので悠仁くん一筋である。 『あー、いたいた、なまえ』 放課後、五条先生に声をかけられた。五条先生も最初から優しかったけど、先生と生徒はなあ……と、何となく攻略するのに抵抗があった私は悠仁くんを選んでしまったのだった。先生ごめんなさい。 『大事な用があってさ。僕と一緒に来てくれる?』 これは通常の放課後イベントではない。となると、好感度が上がったことによる個別イベントが発生したのだろうか。 さっきも言った通り、優しくしてくれる五条先生を放っておいて悠仁くんとばかり仲良くしてきたため、後ろめたさを感じていた私は『はい、わかりました』を選択した。 『ありがとう。じゃあ、行こうか』 画面が暗転して、地下室らしき場所に移動していた。カチリと鍵がかかったような音が聞こえた。えっ、もしかして閉じ込められた? 『せ、先生?』 『はあ、やっぱりダメだ。我慢出来ない』 画面が揺れるエフェクトの後に、ソファに押し倒されているスチルに変わった。五条先生はアイマスクを下ろしていて、本気モードなのが伺える。 『僕も一応教師だからね、一度は身を退いて悠仁に譲ろうと思ったんだ。でも、ダメだった』 『愛してる。愛してるんだ、なまえ』 『悠仁に渡したくない。僕だけを見て。僕のものになって』 『大丈夫、僕の子を孕んでくれたら、ちゃんとここから出してあげるよ』 不穏なBGMとともに五条先生の顔がアップになり、六眼が青く光る。 【五条ヤンデレルート監禁エンド】 という文字が画面に表示され、私はひええっとなった。なんでどうして今まで全然そんな前触れなんてなかったのに。 ……いや、良く考えると前兆はあったかもしれない。 悠仁くん一途プレイをしていた私は、時々発生する五条先生からのデートや課外授業のお誘いをことごとく断ってきた。それが積もり積もって……。 でもでも、そこまで五条先生の好感度が上がってたなんてわからなかったんだもん! 「えっ、もうこんな時間?」 時計を見ると、もう真夜中近い時間だった。急いでゲームを片付けようとしたところで、ドアがノックされた。 「なまえ、起きてる?」 五条先生だ。私はドアを開けた。 「ごめん、こんな遅くに。実は明日の任務について確認したいことがあるんだ。悪いけど、僕と一緒に来てくれる?」 「はい、わかりました」 私が答えると、五条先生は口元に笑みを浮かべて言った。 「ありがとう。じゃあ、行こうか」 ドアを閉めて五条先生についていく。 無人になった部屋で、そこだけ明るく光っている画面の中、【五条ヤンデレルート監禁エンド】の文字が不吉に点滅していた。 |