世間はゴールデンウィークも後半戦だというのに、我々呪術師は毎日働き詰めで、その中でも多忙を極める五条さんがついにブチキレた。

「今すぐ休みをくれないと世界を滅ぼす」

もちろん冗談に決まっているが、それを実行出来る能力の持ち主が真顔でそんなことを言ったものだから、さしもの上層部もビビり散らして直ぐ様五条さんに休暇を与えたのだった。

その五条さんはいま鼻歌混じりに嬉々として肉を焼いている。高専の皆でバーベキューをしているところなのだ。

「ほら、美味しく焼けたよ」

「あ、いえ、私は」

「僕が焼いた肉が食えないっていうの」

どうしよう。酔っ払いに絡まれたみたいな状況になっている。

「肉が大き過ぎるんですよ」

と七海さんが助け船を出してくれる。

「ああ、そういうことね」

そう言った五条さんが肉を細かく切り分けてお皿に乗せてくれた。
そして、何故か私を膝の上に抱き上げて座り、片手に持った割り箸で肉を一切れ取って私の口元へと運んだ。

「はい、あーん」

いやいや、お付き合いもしていないのにそれはちょっと。お付き合いをしていても人前ではだめでしょう。

「五条さん、人前でそれはどうかと」

またもや七海さんが助け船を出してくれる。こんな時に頼れる常識人の存在は有りがたい。

「それもそうだね」

良かった。納得してくれたようだ。

「ちょっとこれ持ってて」

既にお肉が乗っているお皿にカットしたとうもろこしとピーマンなどの野菜を乗せると、五条さんは私にそれを手渡した。
自分で食べていいよということですね。ありがとうございます。
ところが、そうじゃなかった。

「じゃ、僕達は抜けるから。後は皆で適当に楽しんでよ」

そう言って私を抱き上げたまま五条さんが立ち上がったからだ。当然私は慌てふためいた。

「わ、私も皆と一緒にっ」

「なーに言ってんの。人前じゃ嫌だって言うから二人きりになろうとしてあげてるのに」

懸命に主張してみたものの、五条さんにバッサリと斬って捨てられる。二人きりにって……ひええ!

「それに僕の癒しが居なくなったらせっかく取った休みの意味がないでしょ」

「い、癒し……」

「そういうこと。わかったら大人しくしてな。大丈夫、ちゃんと可愛がってあげるから」

ちゅ、と私のおでこにキスを落とした五条さんが、赤くなったり青ざめたりと目まぐるしく顔色を変える私を抱き上げたまま一瞬のうちにその場から消え去った。

「あーあ、やっちゃったよ」

「かわいそうに」

「でも、こうなるってわかってた」

残された人々がざわめく中、七海さんは違うそうじゃないと額を手で押さえていたとかなんとか。


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