夕食後のまったりとした食休みの時間。
テレビからは懐かしいクリスマスソングが次々と流れてくる。
もう今週末にはクリスマス本番で、今年ももう残すところ二週間ほどなのだと思うと感慨深いものがあった。

「なまえさん、少しよろしいですか」

「はい、大丈夫です」

「では、これを。外は寒いので」

えっと思う間もなく、毛布で包み込まれて抱き上げられる。
そうしておもむろに窓を開けたかと思うと、赤屍さんは私を抱きかかえたまま飛び上がった。
とん、と軽やかに着地したのはマンションの屋上で。
何事かと不思議そうな顔で見守る私の目の前で、赤屍さんは今度は空に向かって赤い剣を一閃してみせた。
キイィィンと大気を斬り裂く音がしたと思った次の瞬間には、空を覆っていた分厚い雲が真っ二つに割れて、隠れていた月が顔を現した。

「今年最後の満月ですよ」

赤屍さんが言った。そういえばそんなことを天気予報のコーナーで聞いた気がする。

「一年で一番遠くに見える満月はいかがですか?」

「凄く……綺麗です」

冬の冷たい空気の中で静かに輝く満月は、それはそれは美しかった。
その月明かりの下に佇む黒衣の魔人も。
どちらも私を惹き付けてやまない。

「ありがとうございます。見られて良かったです」

「そうですか。喜んで頂けたのなら何よりです」

そろそろ戻りましょうか、と私を抱きかかえたまま赤屍さんが屋上から飛び降りる。
これにはさすがにひえっとなったが、何事もなかったかのように窓に着地してから室内に入っていった赤屍さんは、そっと私を下に降ろしてくれた。
ほんの束の間の非日常からの帰還である。

「寒かったでしょう。お風呂に入って温まってきて下さい」

赤屍さんの手が頬を包み込む。優しい声音に潜むのは、私の胸をざわめかせる甘い毒。

「それとも、一緒に入りましょうか?」

私の返事は決まりきっていた。


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