「どうぞ、入って下さい」

「お邪魔します」

あくまでも喫茶店の常連客と店員としての態度を崩さないまま彼の家の中に入ったのだが、ドアを閉めて安全を確認した降谷さんはすぐに公安の降谷零の顔に戻っていた。

「それで、状況は?」

「芳しくありません。降谷さんは現在5位です」

「出だしとしては悪くないな。強敵は多いがこのまま負けるつもりはないよ」

冷静さを失わず、それでいて高い目標を見据えて笑う降谷さんに、改めて尊敬出来る上司としての姿を見た思いだった。

「君はもちろん僕に投票してくれたんだろう?」

「あ、いえ、私は」

公平な立場を貫くために投票はしていないのだと告げると、降谷さんは僅かに眉を吊り上げた。

「それはいけない。今すぐ僕に投票してきてくれ」

「ですが……」

「ああ、そうだな。急ぐことはないか。まだ午後も始まったばかりだからな」

降谷さんが言いながら引き戸を開ける。
ローベッドが置かれた和室。
そこは彼のプライベートな空間だった。

「どうした?入っておいで」

「いえ、そういうわけには」

降谷さんが私の手首を掴む。やんわりと、だが決して逃がさないという意思を込めて。
あ、と声を上げる間もなくベッドに引き倒された。

「まだ時間はある。君が投票したくなるように、これから僕の魅力をたっぷり教えてあげよう」


■楽園総選挙冬の陣
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