「昨日、首都高にルーレット族見に行ったんですけど、凄かったですよ」

仕事が終わり、帰り支度をしていると、四月に入社したばかりの新人の子が男性社員に囲まれながらそんな話をしていた。

ルーレット族とは、首都高を物凄いスピードで何度も周回する車のことである。
もちろん迷惑行為に他ならないのだが、中にはそれをカッコいいと感じる者達もいるのだ。
首都高速から降りずに立ち寄ることができる神奈川県の大黒パーキングエリアに、スポーツカーや高級外車が集まって来るのだが、それらを目当てにした見物人も結構な数やって来るらしい。

「みんな速かったけど、一番凄かったのは途中で乱入してきためちゃくちゃ大きいトレーラーですね」

新人ちゃんが興奮した口調で言った。

「いきなり現れたかと思ったら、猛スピードで他の車をぶち抜いて行ったんです。あのカーブをノーブレーキでですよ?めっちゃカッコ良かった!あと、何故かトレーラーの上に人が立ってて、それも凄かったです!」

スポーツカーをぶち抜いて首都高を爆走するトレーラー……心当たりしかない。

帰り支度を終えた私は、「お先に失礼します」と声をかけてから職場を出た。

「お疲れさまでした」

外で待ち構えていた赤屍さんに捕まり、そのまま近くに停めてあったタクシーまで連行される。
まさかと思ったら、やっぱり馬車さんのタクシーだった。

「こんばんは、馬車さん」

「おう、お疲れさん」

「昨日、首都高でお仕事だったんですね」

「おや、よくご存知で」

隣に乗り込んだ赤屍さんが答える。馬車さんはすぐにドアを閉めて車を発進させた。

「卑弥呼さんもいたんですが、やり過ぎだと怒られてしまいましてね」

死人は出ていないのに何が不満なんでしょうねと不思議そうに赤屍さんが言った。

運び屋で常識人なのは卑弥呼ちゃんだけなのかもしれない。
あとでお疲れさまでしたってメールしておこう。

ところでこのタクシー、行き先が我が家じゃないんですが。
私をどこに運んでいくつもりなんだ。
って、赤屍さんのマンションですよね。
知ってた。


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