「あなたが欲しがってたモルカーよ」

お母さんがそう言って見せてくれたモルカーはモルカーではなかった。
全体的なフォルムこそモルカーと似ているが、それ以外のパーツは全くの別物だ。
あの愛らしい丸い目とは似ても似つかない切れ長の目が私を見てまるで獲物を見つけた肉食獣のそれのように緩やかに細められるのを目にした瞬間、背筋がゾッとした。
これはなにかよくないものだと私の勘が告げている。
そんな私の様子が可笑しかったのか、ソレは小さく笑った。

「…………クス」

「お母さん、これモルカーじゃないよ!いまクスッて笑った!」

「ぷいぷい」

「気のせいでしょ。ちゃんとぷいぷい鳴いてるじゃない」

どうやらお母さんは自分が偽物を掴まされたとは思いたくないらしい。どうしてもこれはモルカーだと言い張る気のようだ。

「ほら、早く乗りなさい。遅刻しちゃうわよ」

急かされて仕方なくソレに乗り込む。
中はふかふかの毛皮──などではなく、内臓そのもののてらてらとぬめり輝くピンク色で、ドクンドクンと不気味に脈打っていた。

「お母さん!お母さん!これ絶対モルカーじゃない!」

「はいはい。もういいから、早く行きなさい」

世の母親とは時として残酷なものである。
私は泣く泣く出発することにした。
モルカーではないナニかが滑るように動き出す。

「やっと二人きりになれましたね」

「ヒッ」

「もう離しませんよ。愛しいひと」

ソレは艶めいた美声で私に囁きかけると、いずこかへ向かって走り出した。
明らかに目的地が違う。
自分がどこかへ攫われようとしているのだとわかっていても、私は肉色ピンクの内臓の中に埋もれてただひたすら震えていることしか出来なかった。


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