最近、家の中に微妙な違和感を感じる。 動かした覚えのないものが別の場所に移動していたり、自分以外の誰かの存在を感じることがあるのだ。 怖くなった私は定点カメラを設置することにした。 といっても普通に設置してはバレてしまうので、それとわからないような場所に隠してカメラを設置した。 これで自分がいない間に何が起こっているかわかる。 そして、今日。仕事から帰って来た私はカメラに録画された映像を見ていた。 最初に私の顔が映って、朝の身支度をしている様子が映し出されていた。 そして、仕事に行くために私が部屋から出て行く姿が。 その後はしばらく無人の部屋が映っていたのだが、突然、何の前触れもなく黒衣の男が画面に現れた。 まるで次元の裂け目から出てきたように何もない場所から突然現れた男は、冷蔵庫にプリンらしきものをしまうと、私がテーブルに置きっぱなしにしていたマグカップを手に取り、おもむろに流しで洗い始めた。 マグカップを洗う不法侵入者。聞いたことがない。 何がヤバいって、この侵入者に見覚えがあるということだった。 行きつけのラーメン屋さんでよく隣に座っている常連客だ、確か。 以前、長い黒髪が食べるのに邪魔だろうと思ってヘアゴムを貸したことがある。 ありがとうございます、と告げられた声は穏やかそうだったのに、まさかストーカーだったなんて。 あっ、それジャンプショップで買った五条さんのジャージ! 彼シャツごっこするために買ったそれを、あろうことか着ようとしているではないか。 やめてよして触らないで着ないで! 黒衣の上からではわからなかったけど、この人、イイ身体してる。五条さんも肉体美が凄そうだけど、この侵入者も負けていない。 全体的に均整のとれた肉体であるだけに、左半身に縦に走る傷痕が余計に痛々しく感じられる。 って、いやいや、そうじゃなくて。 五条さんのジャージを着た男は、隅々まで掃除機をかけた後で、コロコロと粘着ローラーまでかけていた。 最近部屋が綺麗だった理由がわかった。 充分自分の匂いがついたと思ったのか、男は五条さんのジャージを脱いで元通りハンガーに掛け直した。 私が仕事から疲れて帰宅するたびに、すーはーと匂いを嗅いで癒されていたジャージを。なんということだ。 カメラに向かってにっこり微笑んだあと、男はクローゼットの中に消えた。 誰もいなくなった部屋に私が入って来てクローゼットを背にして座り、録画映像を見始めたところで映像は終わっていた。 背後から密やかな忍び笑いが聞こえてくる。 振り返る前から、私はこの後自分の身に何が起こるのかわかっていた。 |