※もしも煉獄さんが逆トリしてきたのが米花町だったら



ランチタイムのピークを外して少し遅い時間にポアロを訪れると、思った通りテーブル席が空いていた。

「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ」

「杏寿郎くん、ここでいい?」

「ああ、構わない!」

迷う暇もなく、梓さんに声を掛けられたので、それならばと外が見える窓の側のテーブル席に向かいあって座る。
すぐに安室さんがやって来て、メニューを渡してくれた。

「こんにちは、なまえさん。今日はお一人じゃないんですね」

安室さんの爽やかな笑顔に、どこか含みがあるような気がしたのは何故だろう。
きっと気のせいだと自分に言い聞かせて、杏寿郎くんを紹介することにした。

「こちらは煉獄杏寿郎くん。わけあって、いまうちで一緒に暮らしているんです」

「家で一緒に?」

安室さんが驚いたように私から杏寿郎くんに視線を移した。

「煉獄杏寿郎だ。よろしく頼む」

「安室透です。なまえさんのお友達でしたら、いつでも大歓迎ですよ」

「友達ではないな!俺は彼女のことを好いている!」

「なるほど。奇遇ですね。僕もです」

二人とも笑顔ではあったが、彼らの間にはバチバチと火花が散って見えた。
え?え?杏寿郎くんはともかく、安室さんまで、そんな。

「安室さん、杏寿郎くんをからかわないで下さい」

「僕は本気ですよ。お二人がどういう関係なのか、是非お聞きしたいですね」

安室さんの追及に、私はうっと声を詰まらせた。

「どうやらわけありのようですが、好きな女性が他の男とひとつ屋根の下で暮らしていると聞いて、心穏やかでいられるほど出来た人間ではないので」

「えーと、それは……あっ、メニューありがとうございます。杏寿郎くん、何食べる?ここのハムサンドはお勧めだよ。でも、ハムサンドだけじゃ足りないかな。ミートボールのセットも頼もうか」

「洋食か。食べ慣れているだろうから、君に任せる」

「なまえさん?」

安室さんの笑顔の圧が凄い。

「ちゃんと、後で説明して下さいね」

「は、はい」

メニューを開いて、ここからここまで下さいと頼むと、さすがの安室さんも驚いていた。
が、そこは安室さん。
かしこまりました、と頷いてカウンターに戻って行った。ほっ。

「彼も君を好いているのだな」

「えっ、あっ、いや、それは」

「だが、負ける気はしない!俺は必ず君を妻にしてみせる!」

「杏寿郎くん、声!大きい!」

「すまない!」

安室さんからめちゃくちゃ視線を感じる。
だけど、怖くて安室さんのほうを見られなかった。

料理は殆ど全部杏寿郎くんがたいらげた。

たぶん、かなりポアロの売り上げに貢献したはずだ。

その夜、安室さんから追及のメールが来て、なんと返信したものか悩むことになるのだが、当然と言えば当然だったかもしれない。


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